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オリンピックPRESSBACK NUMBER
「頑張れって言わないで!」水泳・大橋悠依が語る“コーチとの衝突”…感情を失った金メダリストはどうやって“燃え尽き”を乗り越えたのか?
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph byAsami Enomoto
posted2024/12/20 11:04
21年の競技生活に終止符を打った大橋悠依(29歳)
「やっぱりずっと近くにいましたし、よく話もしていましたから。2022年の世界選手権では200mが全然ダメで。1週間後に400mのレースが控えていたんですが、石松さんから『頑張ろう!』と言われて、私は「400mの直前になったら頑張るって決めてるから! それまでは“頑張れ”って言わないで!』と言い返したり(笑)。石松さんにはそうやっていつも本音でぶつかれましたね」
現役引退を最終的に決断したのは、パリ五輪を控えた昨年の秋頃だった。冬の鍛錬期を前に、「(オリンピックに出場するのは)あと1回と思わないと心が持ちそうにないし、自分の気持ちを無視することはできませんでした。もう限界だなと思いましたし、このタイミングがベストだろうって」。
時間をかけて理解した、金メダルの価値
この3年間は何度も引退を考えたことがあったが、その度に踏みとどまった。大橋を奮い立たせたものは何だったのか。
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「パリ五輪を目指すことを決めたのは他の誰でもなく、自分自身です。辞めたいと思ったときも、“そう決断したのは私だよね?”と自問自答して。それなら、義務感で競泳を続けるとか、ネガティブな気持ちで最後を迎えるよりも、少しでも前向きな気持ちで引退しないと、競泳を辞めた後の人生にも繫がらないんじゃないかって。そんなことを考えながら過ごしてきました。自分が東京五輪の後も競泳を続けた意味、そして東京五輪で獲った金メダルにはどんな意味があったのか。それをしっかりと見つけないといけないと思ったんです」
金メダルとの重圧と戦いながら3年という月日をかけ、その価値を大橋は確かに見出した。
「最初は金メダルを取ったことにすごく価値があると思っていました。でも世界には自分よりも素晴らしい選手がたくさんいる。そういった選手と比べたとき、自分はたった2つメダルを取っただけ。それよりも4年に1度の舞台ですべてを懸けることができたし、果敢に挑戦して成功に結びつけられたという事実は、確かに私の自信になっているなと思えたんです。今はあの時に比べれば、どんな緊張もたいしたことないって思えるようになりました。あの経験が自分の糧や勇気になっている。それが東京での金メダルの価値だったのかなと今は感じています」