濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
タイガー・クイーン妹分の“デビュー戦で重傷”はなぜ起きたのか? Sareeeの“危険な技”論争も拡散…プロレスラーのケガと、ファンはどう向き合うべきか
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2024/12/17 11:04
12月5日に行われたタイガー・プリンセスのデビュー戦
あえて“動かなかった”高橋の機転
だがSareeeは今年の東京スポーツ認定・女子プロレス大賞の受賞者。高橋は“女子プロレス界の人間国宝”と呼ばれるベテランである。2人の“未熟さ”を探して批判すれば事足りるというわけではないはずだ。どちらも、業界屈指の“未熟ではない”レスラーなのだから。Sareeeは高橋の“受け”を信頼してきつい角度で投げたのかもしれない。
Sareeeがダメ、高橋がダメということではなく、様々な要因を考慮すべきなのだ。たとえばこの試合は、北海道遠征のダブルヘッダー2試合目。疲労などは影響していなかったか。
むしろ注目すべきは高橋の対応かもしれない。裏投げのダメージを感じた高橋は、そのままわざと起き上がらなかった。これまでの経験上からも負傷箇所を動かすことなく病院に向かったほうがいいと。つまり高橋は“裏投げで動けなくなった”のではなく“あえて自分から動かなかった”。
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首に痛みはあるが手足は動くことをその場で確認してもいる。そうして、遠征先であることと週末で道が混んでいることを踏まえて救急車を呼び、東京に戻ってからMRI検査も受けた。
高橋はヘルニアなど、もともと首が悪かったという。だからこそ自分の体に起きた“異変”に敏感で、落ち着いた対処ができたのだ。つまり、もともと首が悪い選手が首を負傷したということでもある。不運なことだったが、それは“危険な技”のせいなのだろうか? 検証しなくてはいけないのは、技の危険度だけではない。
場内が騒然となったデスマッチのレフェリーストップ
12月9日、大日本プロレス後楽園ホール大会では、メインのデスマッチが負傷によるレフェリーストップで終わった。菊田一美がプロレスリングFREEDOMSのチャンピオンである杉浦透に挑んだ一戦。大日本とFREEDOMSは日本のデスマッチ2大団体である。
そんな重要な試合だったが、ボルテージが上がりきる前に終わってしまう。杉浦に蛍光灯の束を抱えさせた状態で、菊田が串刺しドロップキック。この一撃で杉浦は首(ノドのあたり)から出血する。状況を見たレフェリーは、すぐに試合を止めた。FREEDOMSから大日本への王座移動。場内は一時、騒然となった。
とはいえ多くの観客は、デスマッチには(プロレスには)こういうこともあると納得していたようだった。狙っていたフィニッシュではなくとも決着は決着だ。“デスマッチのカリスマ”葛西純も、これはアクシデントではないと強調した。
菊田はルールで認められた攻撃をした。それを受けて杉浦は続行不能になった。“競技”としてはそれがすべてなのだ。ある選手は、杉浦がドロップキックを受ける際に“急所”を外せなかった、だから致命傷になったのだと分析している。やはりアクシデントではないという見方だ。