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“予告なし”の中日・立浪和義外し…無言の落合博満が記者に明かしていた言葉の意味「俺が座っているところからはな、三遊間がよく見えるんだよ」―2024下半期読まれた記事
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byJIJI PRESS
posted2024/12/23 11:01
中日ドラゴンズの監督を8年間務め日本シリーズに5度進出、2007年には日本一にも輝いた落合博満
「きょうは、どこ行きますか?」
「どこでもいいよ。この間の店は?」
「いいですねえ。まあ、10時には終わると思いますから、終わったら連絡しますわ」
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あと数分でゲームが始まるというのに、その選手は終わった後の酒のことをあれこれと思い描いていた。そして、「ああ、痛てて......、今日は肩がダメですわ」と苦笑いし ながら、衆目の集まるグラウンドへと向かっていった。
その夜、チームは午後10時を待たずに敗れた。
私はそれを見て、プロ野球にも予定調和や馴れ合いが存在することを初めて知った。急に目の前の世界が色褪せて見えた。
どうせ、すべてはあらかじめ決められているのだ。
そんな無力感に身を浸すようになったのは、振り返ってみればそれからだった。
メンバー表に立浪の名前はなく…
ところが今、この球団のベンチは触れれば切れてしまいそうなほど張りつめている。この世界は果てしない奪い合いなのだという不文律が、これでもかというほど剥き出しになっている。
そこにシナリオはない。安全圏もない。これから何かをつかもうとする者も、すでに全てを手にしている者も、そして監督でさえも、全員が等しく奪うか、奪われるか、その緊迫感の渦中にいた。私はその空気に惹きつけられていた。
記者席にメンバー表が届いたのは、いつも通り、プレーボール30分前だった。そこにはやはり、立浪の名前がなかった。サードには、ひと月ほど前に右手小指の骨折から一軍に戻ってきた森野将彦の名が書かれてあった。
午後6時。ゲームが始まった。ダグアウトから森野がサードへと走っていく。立浪はベンチの真ん中に座ったまま、それを見つめていた。
これがプロ野球かーー 。私はその鮮烈な光景に刮目した。
その日の落合は、立浪をゲーム終盤の代打で起用した。
立浪は三振に倒れ、チームは1点も取れずに敗れた。
<第1回から続く>