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「なんで、ひと言もないんだ!」立浪和義の怒声…落合博満はなぜ中日の“聖域”にメスを入れたのか?「これは俺にしかできない。他の監督にはできない」―2024下半期読まれた記事
posted2024/12/23 11:00
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
JIJI PRESS
2024年の期間内(対象:2024年9月~2024年12月)まで、NumberWebで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。プロ野球部門の第3位は、こちら!(初公開日 2024年10月12日/肩書などはすべて当時)。
その中から、2006年シーズンに立浪和義を外した場面を紹介する。落合監督はなぜ、ドラゴンズのスター選手であり、“聖域”ともいえる立浪のポジションをなんの説明もなく剥奪したのか。<全3回の第2回/第3回へ>
落合の謎かけ
「なぜ、立浪さんを外そうとするんですか?」
ずっと訊きたかったことだった。
「俺に何を言えっていうんだよ」
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落合は射るような横目で私を見た。
「選手ってのはな、お前らが思ってるより敏感なんだ。あいつらは生活かけて、人生かけて競争してるんだ。その途中で俺が何か言ったら、邪魔をすることになる。あいつらはあいつらで決着をつけるんだよ」
落合はまた窓の外に目を向けた。
私は感情の読み取れない横顔を見ながら、その言葉の意味を考えた。
あいつらはあいつらで決着をつけるーー そこに指揮官として無言を貫く理由があるというのだろうか。わかったことはひとつだった。落合はリングをもうけた。そして、開幕直前の森野の骨折によって決着はついたのだ。
車は再び沈黙を乗せたまま、第三京浜に入り、速度を上げていった。
平日の昼ということもあるのだろう、下りの高速道路は空いていた。
「試合中、俺がどこに座っているか、わかるか?」
今度は落合が切り出した。
落合がゲーム中に座っているのはベンチの左端だった。いつも、ホームベースに最も近いその場所からじっと戦況を見つめている。
「俺が座っているところからはな、三遊間がよく見えるんだよ」
落合は意味ありげに言った。確かにそこからはサードとショートの間が正面に見えるはずだ。
「これまで抜けなかった打球がな、年々そこを抜けていくようになってきたんだ」
「ここから毎日バッターを見ててみな」
どこか謎かけのような響きがあった。私は一瞬考えてから、その言葉の意味を理解した。背筋にゾクッとするものが走った。