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「お互いヘボ同士なんだから…」秋初戦敗退の“偏差値66公立校”が夏の甲子園1勝「大社さんもそうでした」“栄冠の舞台裏”を掛川西監督に聞く 

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間淳

間淳Jun Aida

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photograph byKyodo News

posted2024/10/13 06:00

「お互いヘボ同士なんだから…」秋初戦敗退の“偏差値66公立校”が夏の甲子園1勝「大社さんもそうでした」“栄冠の舞台裏”を掛川西監督に聞く<Number Web> photograph by Kyodo News

今夏の甲子園で1勝を挙げた掛川西。1年前の8月は「秋季大会初戦敗退」だった公立校はいかにして栄冠を手に入れたのか

「秋の大会で初戦敗退した現実を指導者も選手も受け入れなければ、前に進めないと思っていました。ヘボ同士なんだから、せめて同じ方を向こうという思いをフィロソフィーに込めました」

 フィロソフィーは決して、大石監督から選手への押し付けではない。日々の練習や練習試合を通じて選手が修正や加筆を提案し、チーム全体が納得する形に更新していく。骨格が固まって選手に浸透してきたタイミングで、内容を理解しているか確認するテストも実施したという。

「指導の基準が曖昧だったり“言った・言わない”という状況になったりすると、選手との信頼関係は崩れてしまいます」

 あえて手間をかけてでも、フィロソフィーをつくった理由について、指揮官はこう続ける。

「選手たちは自分たちで決めたルールを破った時に指導者から指摘されたら納得します。フィロソフィーをつくるのは大変でしたが、急がば回れで結果的に近道だったと感じています。チームの方向性が明確になって1つになれましたから」

監督が“フィロソフィー”から外れれば選手からも…

 今までは課題が見つかると練習中にプレーを止めたり、練習後にミーティングをしたりして大石監督が選手に説明する時間を割いていた。ところが、フィロソフィーを共有してからは該当するページを見ておくように伝えるだけで済み、大幅な時間短縮になった。

 指導者と選手に共通のルールができたことで、距離感も縮まった。高校野球の“常識”とも言える絶対的な上下関係とは程遠い、対等に近い関係性になったという。時には、選手から大石監督に鋭いツッコミが入る。

 練習試合で審判の判定に対して大石監督がベンチでぼやくと、選手から「相手を尊重」、「スポーツマンシップを守りましょう」と指摘される。フィロソフィーではスポーツマンシップに関する項目もあり「相手の人格を傷つける野次、審判への暴言や不満の表明は厳禁」と書かれている。指揮官は「選手に『冷静さを欠きました。以後、気を付けます』と謝ると、『そういう前向きな気持ちは良いと思います』と返ってくるんです。生徒に怒られる関係は何なんだろうと少し落ち込みますね」と笑う。

大社旋風を見て「このやり方でいいんだ」

 長年、高校野球に携わってきた人から見ると、監督と選手の距離が近すぎると感じるかもしれない。

 だが掛川西は今夏、26年ぶりに夏の甲子園出場を決めた。目標のベスト8には届かなかったものの、白星もあげている。秋の大会で初戦敗退となったどん底から、約1年をかけて静岡県の頂点へ上り詰めたのだ。

 そしてたどり着いた聖地・甲子園。大石監督は転換した指導方針が間違っていないと確信する出来事もあった。

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