- #1
- #2
沸騰! 日本サラブ列島BACK NUMBER
武豊55歳はなぜ“衰えない”のか?「馬群からスタンド前の会話を視認」実際にあった超人エピソード…米調教師も驚愕「正確すぎる体内時計」
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byNaoya Sanuki
posted2024/09/28 11:07
日本競馬界が誇る天才騎手・武豊。55歳になった現在もトップジョッキーとして衰え知らずの活躍を見せている
抜群のバランス感覚と世界最高水準の技術
昔から「馬7人3」と言われ、レースの勝敗に騎手の技量が作用するのは一部だとされている。もちろん、馬の力が突出していて誰が乗っても勝っていたと思われるレースもあれば、この騎手でなければ勝てなかったというレースもあり、7対3というのはあくまでも一般論である。いずれにしても、走るのは馬で、騎手は、自身の力の延長線上にある動力を操作する「ドライバー」であり、他馬という「障害物」に邪魔されずに進路を見つけながらゴールを目指す「レーサー」である。
求められるのは、「ドライバー」として効率よく操縦するのに必要なバランス感覚と、手綱の操作や鞭の持ち替えなどで馬の走る速度や方向をコントロールする騎乗技術、そして、「レーサー」として自身の最適な位置や仕掛けどころを把握するための動体視力と体内時計、瞬時に先を読む洞察力などだ。
それらのすべてがきわめて高いレベルにあったので、リーディングに史上最多の18度も輝き、その過程で日本人騎手初の海外GI制覇、史上2人目の八大競走完全制覇、史上初の年間200勝突破、日本ダービー6勝など、ほかの誰もできなかったことを次々とやってのけ、「天才」の名をほしいままにした。
アスリート一般に求められる筋力やスピード、瞬発力、持久力といったものに比べ、前述の騎手に必要な能力は、若者が中年になる程度の加齢ではさほど衰えることのないものばかりである。
騎乗技術に関して、わかりやすいものをピックアップすると、優れたバランス感覚があるかどうかは、馬上でのフォームが崩れないかどうかを見るといい。モンキー乗りの姿勢で、特にズブい(反応の鈍い)馬を追っていると、次第に腰が浮いてくるのだが、武はレース終盤になってもそのようにフォームを崩すことはない。
そして、鞭の持ち替え。馬は叩かれたほうと反対側に行こうとするので、直線で内によれそうになったら内側に、逆に、外にふくれそうになったら外側に鞭を持ち替えて叩くのだが、武の鞭の持ち替えの速さは今でも世界トップクラスである。
武が出演した「最後の10完歩」というJRAのブランドCMがある。この映像を見ると、彼がどのように鞭を持ち替えているのかわかりやすい。CMが流れたのは20年以上前だが、むしろあのころより持ち替えが鮮やかになっているほどだ。
また、身長170cmと、騎手にしては長身の武は、長い手足を高性能サスペンションのように柔らかく使って、掛かり癖のある馬の行く気を削ぐ技術に長けている。それも年齢によって変わるものでないことは言わずもがなだろう。