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ボクシングPRESSBACK NUMBER
インターバルの表情に“ある変化”…井上尚弥はいかにドヘニーを圧倒したか?“怪物と最も拳を交えた男”が見た「わざと相手が打ちたくなる距離」
posted2024/09/07 11:29
text by
森合正範Masanori Moriai
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
数センチの攻防だった。ドヘニーが大きな左を放つと、井上がそれに合わせてコンパクトな左フックのカウンター。両者ともにクリーンヒットこそしなかったが、序盤に何度かヒリヒリするシーンが見られた。
――ドヘニー選手は攻め手を潰されているとわかったから、攻撃をできなかったということですか。
「たぶんそうです。井上選手はもう打ってくるのを待っているんで。打ってこなかったら、距離をキープしたまま、ドヘニー選手が下がった分だけ一緒に動いたり、横に行った分だけ細かいステップで付いていったり」
井上尚弥はわざと「相手が打ちたくなる距離」を作る
――その距離をキープされるのも相手にとっては嫌ですよね。
「井上選手は相手のパンチが届くか、届かないか、ギリギリの位置にいるんです。絶妙な距離感。そうすると相手が打ってくる。相手を動かして、カウンターを入れたり、細かいステップバックで他のアクションをしたり。とにかく距離感がすごいです」
――相手が打ちたくなる距離、絶妙な距離感の把握というのは簡単にはできないですよね。
「難しいと思います。僕はボクシングの前に剣道をやっていたので、間合いはなんとなくわかる。でも、井上選手の場合、その距離感のセンサーっていうんですかね。それがものすごく発達している印象があります」
――井上選手はスパーリングでも、相手が動いた分だけ動いたり、あのようなプレッシャーのかけ方をするんですか。
「僕はもう井上選手にそういう考える時間を与えたら絶対に良くないと思っていました。ほぼスーパーフライ級までしかスパーをやっていないので、体のフレームの差もパワーの差もそこまでなかったから『下がったら負ける』と思っていました。ジャブをバンバン出して、自分から攻めて。でもそうやってカウンターをもらってしまうんですけど……」