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インターバルの表情に“ある変化”…井上尚弥はいかにドヘニーを圧倒したか?“怪物と最も拳を交えた男”が見た「わざと相手が打ちたくなる距離」 

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森合正範

森合正範Masanori Moriai

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photograph byHiroaki Yamaguchi

posted2024/09/07 11:29

インターバルの表情に“ある変化”…井上尚弥はいかにドヘニーを圧倒したか?“怪物と最も拳を交えた男”が見た「わざと相手が打ちたくなる距離」<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

ドヘニーを圧倒した井上尚弥。じつはインターバル中の表情もこれまでと違ったと黒田雅之氏は語る

8、9ラウンドがもしあったら…

――序盤から静かな展開で、試合でカギとなった場面はありましたか。

「今回は場面というより、流れですね」

――流れですか?

「井上選手は時間とともに、どんどんペースアップをしていきましたね。僕はどこかでバンと上がると思っていたんです。だけど4ラウンドくらいまで慎重で、5ラウンドくらいから上げていって、さらに6も上げて、7ラウンド目を迎えました。僕の見立てですが、たぶん8とか9ラウンドにピークを持っていく予定だったのかな、と。だから、どの場面というより、段々上げていく闘い方が印象に残りました」

――その意図はなんでしょう。

「本人も少しそんなことを言っていましたが、今後自分より大きな相手とやるときのペース配分だったり、慎重さだったり、試合の中で一つずつ試している気がしました。体重を62キロ超まで戻したのもそうでしょう。4団体統一戦の防衛戦で『試している』ということ自体、なんとも恐ろしい話ですが」

インターバル中の表情に「いつもと違う点」

ドヘニーは前日計量の55.1キロから11キロ戻し、試合当日は66.1キロ。井上は55.3キロからプラス7.4キロとなる62.7キロでリングへ。試合後「今回は意図的に増やして、ボクシングスキルが落ちない程度にどこまでリカバリーできるかを試した」と語った。

――試しながら、陣営のテーマに則ってやっていたということですね。

「あくまで個人的な見解ですが、11キロ戻しのドヘニー選手にパンチを打たせて、ゆくゆくはフェザー級の体感を知るためにブロッキングをしているのかなと。インターバル中の表情もなんかいつもと違う。すごく機械的と言ったら申し訳ないのですが」

――あまり感情がないというか、熱くならないようにというか。

「前回のネリ戦とは違いましたよね。とにかく慎重に、慎重に、ですね」

――井上選手の場合、スパーリングでも自分の中でのテーマづけがはっきりしているんですよね。

「そうです。本当にテーマづけがしっかりしている。もう明らかに打ち合う気がないスパーを4ラウンドやったこともあります。ひたすら僕が空転させられるスパーだったり、ディフェンシブな闘いから相手の空いているところを狙ってきたり。やるべきことのテーマがはっきりしているように感じました」

――11キロ戻したドヘニー選手の話がでましたが、井上選手が大きな相手とスパーリングをしているのを見たことはありますか。

「結構あります。苦手じゃないと思います。それこそ、絶妙な距離に立っていて、相手に打たせる。今回もよくやっていたあの小さなバックステップとか、細かくて滑らかなフットワークで動いてカウンターを打つ。井上選手がやっているので、すごく派手で高等テクニックに見えるんですけど、ボクサーがやらなきゃいけない基本的なこと。バックステップとかサイドステップとか。サウスポーに対して(左足を)外側の位置に取ったり、左の相手にいきなりの右を打つのはセオリー。本当に基本的なことを徹底的にやっている印象です」

【次ページ】 「ドヘニー選手だって元世界王者でめちゃくちゃ強い」

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