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ルクレール&フェラーリがモンツァ制覇でティフォシ歓喜! マクラーレン1−2の目論見を阻んだモンツァの魔物の悪戯とは
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2024/09/06 11:01
フェラーリの母国で今季2勝目を上げたルクレール。ランクトップのフェルスタッペンに86ポイント差の3位につけている
そして今年、魔物の悪戯に翻弄されたのはマクラーレンだった。ランド・ノリスが土曜の予選で圧巻のポールポジションを獲得。日曜のレースではスタート直後の1コーナーこそトップの座を守ったが、2つ目のシケインでチームメートのオスカー・ピアストリに先行を許し、続くコーナーでシャルル・ルクレール(フェラーリ)にかわされ3番手に後退してしまう。
ノリスはそれでも1回目のピットストップでルクレールを逆転。上位陣で1回目のピットストップを遅らせていたレッドブル勢がピットインしたところで、マクラーレンは1-2体制を築く。おそらくマクラーレンはこの時点で勝利を確信したはずだ。なぜなら、1回目のタイヤ交換で「ハード→ハード」の選択をしたレッドブルは、2種類のタイヤ使用を義務付けるルールを消化するため、もう一度ピットインする必要があるからだ。
マクラーレンはここで、ある指令を無線で飛ばす。それは、チームカラーにちなんだ「パパイヤ・ルール」の実行で、事故を起こさなければチームメート同士でバトルしてもいいというチーム内の取り決めだった。
これにより、チャンピオンシップでマックス・フェルスタッペン(レッドブル)を追うノリスがピアストリを猛追。ピアストリも逆転されまいと逃げに逃げた。そのため、2人のタイヤは徐々に消耗していったが、もう一度ピットインしてタイヤを交換すれば1−2体制の維持は可能であるように思われた。
賭けに出たフェラーリ
ところがこのとき、フェラーリは1ストップ作戦を選択していた。同じ2ストップでは勝てないと、マクラーレンの裏をかく賭けに出ていたのだ。
レース中盤、ルクレールのペースを見て1ストップ作戦を察知したマクラーレンだったが、パパイヤ・ルールによってすでにタイヤを消耗させており、1ストップ作戦に切り替える選択肢は残っていなかった。
マクラーレン勢が2回目のピットストップを行った39周目に、ルクレールがトップに立つ。スタンドを埋め尽くした"ティフォシ(フェラーリの熱狂的なファン)"は勝利を信じ、ルクレールが目の前を通過するたびに立ち上がって声援を送った。その声援はルクレールがトップでチェッカーフラッグを受けた瞬間に爆発し、モンツァの森に歓喜がこだました。
その声を聞きながら、魔物は静かに森の中へ帰っていった。次に現れるのはいつになるだろうか。