- #1
- #2
将棋PRESSBACK NUMBER
崖っぷち加藤一二三が“開き直って二度お手洗い”に行ったら「大山康晴に逆転勝利→初タイトル」名棋士とトイレ秘話「昔は棋書を持ち込み…」
posted2024/09/02 11:02
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph by
BUNGEISHUNJU
2019年の木村-菅井でも珍しい事態が
近年の対局で、トイレで珍しい事態が起きたのは、2019年5月に王位戦リーグで木村一基九段と菅井竜也七段が対戦したときのことである。
菅井に攻め込まれた木村が懸命に受けた末に玉が敵陣に入り込むと、菅井も同じく入玉を目指した。やがて手数は293手に達した。そんな状況で記録係は尿意を我慢しきれず、手番の菅井に申し出てトイレに駆け込んだ。すると秒読み中の木村も後を追い、対局室に菅井だけが取り残される状況になった。
記録係は対局中に折を見てトイレに行くのだが、木村の秒読みが延々と続いたことで行きそびれたようだ。なお対局は無勝負の持将棋が成立するかどうかの駒取り戦の結果、菅井は引き分けとなる24点に2点足りず投了し、木村が317手で勝った。
長考派の代表格、加藤一二三は…
長考派の棋士として知られた棋士も、トイレ時間の使い方で思わぬ事態が起きたことがあった。その代表格が加藤一二三・九段である。
加藤は20代から40代の頃、公式戦の対局で持ち時間を序盤からたっぷりと惜しみなく使った。そのために中盤で1手60秒の秒読みになってしまい、終盤で勝ち筋を逃すことがあった。自身を苦しい状況に追い込む姿勢はまるで修行僧のようで、将棋界の七不思議とも言われた。
加藤は自身の将棋について、以前に次のように語った。
「私が長考するようになったのは20歳の頃で、大山先生(康晴十五世名人)や升田先生(幸三実力制第四代名人)と対局したのがきっかけです。この2人には一度リードを許すと負けてしまうので、序盤で懸命に考えました。中盤ではどの局面でも直感で浮かんだ手がだいたい正しく、それを確認するために時間をかけて精読しました。
将棋は限りなく深いので読み切るのは不可能ですが、そうした努力は棋士の使命だと思います。時間に追われて悪手を指したことはよくあり、おそらく200局ぐらいは逆転負けしました。ただ秒読みでも、リズムにうまく乗るとスイスイと調子よく指せます。だから、いつまでたっても長考を止められない(笑)」