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崖っぷち加藤一二三が“開き直って二度お手洗い”に行ったら「大山康晴に逆転勝利→初タイトル」名棋士とトイレ秘話「昔は棋書を持ち込み…」 

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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photograph byBUNGEISHUNJU

posted2024/09/02 11:02

崖っぷち加藤一二三が“開き直って二度お手洗い”に行ったら「大山康晴に逆転勝利→初タイトル」名棋士とトイレ秘話「昔は棋書を持ち込み…」<Number Web> photograph by BUNGEISHUNJU

若き日の加藤一二三も、タイトル戦のトイレを巡って勝敗に直結したことが

最終盤で“2回も開き直ってトイレ”に行ったら形勢逆転

 1968年の十段戦で、加藤八段は大山十段に挑戦した。加藤は過去のタイトル戦で名人戦、王将戦、王位戦で大山に計5回挑戦し、いずれも敗退していた。十段戦で大山が先に2連勝すると、加藤も2連勝して追いついた。

 そして大山が3勝2敗と勝ち越して第6局を迎えた。加藤は大山の振り飛車に対して果敢に攻め込み、終盤で優勢になったが、時間に追われて疑問手を指して形勢は逆転した。加藤は本局でも持ち時間(各9時間)を使い切り、中盤から秒読みに追われていた。その加藤が大山の手番の局面で、2回ほどトイレに行った。半ば開き直りの行為だった。

 大山がすぐに指せば、加藤は60秒以内に着手できなかったかもしれない。しかし大山は加藤が戻るのを待った。形勢は勝利が濃厚だし、相手の時間切れで防衛というのは、第一人者として体裁が悪い。大山は加藤に「塩を送った」のだが、勝負の流れというのは微妙なものだ。指し手の方も塩を送ってしまった。

 第1図は、それに関連した局面の部分図(便宜上、先手・後手は逆。外部サイトでご覧の方は関連記事からご覧になれます)。

 第1図から、▲3四金△同玉▲3七香△2四玉▲2五歩△1三玉(△同玉は▲3四銀△2四玉▲3三銀不成以下詰み)▲2二銀△1二玉▲1一銀成△同玉▲1三香△2一玉▲1二香成△3一玉▲2二成香(第2図)まで、加藤の玉は詰んでいた。

 手数は少し長いが一本道で難しくない。ところが、精密機械の読みと言われた大山がその即詰みを見落としてしまった。2手後にも同じ詰み手順を逃した。

即詰みを逃れた加藤は、念願の初タイトルを

 どんな一流棋士でも悪手やポカを指すことはあるが、持ち時間が3時間も残っている状況で大山の連続の即詰み逃しは不思議だ。秒読み中にトイレに行った加藤の開き直りによって、大山の思考回路に狂いが生じたのだろうか……。

 即詰みを逃れた加藤は厳しい寄せで迫って大山に勝ち、3勝3敗の五分に持ち込んだ。

【次ページ】 即詰みを逃れて念願の初タイトルを(対局の貴重写真あり)

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