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崖っぷち加藤一二三が“開き直って二度お手洗い”に行ったら「大山康晴に逆転勝利→初タイトル」名棋士とトイレ秘話「昔は棋書を持ち込み…」 

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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posted2024/09/02 11:02

崖っぷち加藤一二三が“開き直って二度お手洗い”に行ったら「大山康晴に逆転勝利→初タイトル」名棋士とトイレ秘話「昔は棋書を持ち込み…」<Number Web> photograph by BUNGEISHUNJU

若き日の加藤一二三も、タイトル戦のトイレを巡って勝敗に直結したことが

 第7局は69年1月に行われた。加藤は77分、102分、68分と長考を重ね、中盤から秒読みに追われたが、終盤で寄せ合いを制して大山に勝った。

 加藤は大山を4勝3敗で破り、初タイトルの十段を棋士15年目で獲得した。大きな自信になったという。以降のタイトル獲得は、名人・王位・王将・棋王など計8期の名棋士である。

昔は「トイレ棋書」が起きても笑い話の種だった

 最後にトイレに関する、ひと昔前ならではのエピソードを紹介する。

 50年以上前にA級八段の実力者と四段の若手棋士が対戦した。戦型は相矢倉の最新形になった。その戦いを詳しく解説した棋書が刊行されていた。それを思い出した若手棋士は、対局中にその棋書をトイレに持ち込んで熟読した。そして、実戦は棋書の通りに進行し、優勢になった若手棋士がA級棋士(棋書のことは知らなかった)に快勝した。

 カンニングに当たる「トイレ棋書」の話が知れ渡ると、仲間の棋士たちは笑い話の種にした。若手棋士に対しては非難せず、A級棋士がそんなことで負けるのはおかしい、という見方をしたものだ。昔の棋界は大らかだった。

 現代の規定では、棋士が対局中にスマホなどの電子機器に搭載された将棋ソフトを用いて検索するのは反則行為に当たる(そもそも電子機器を対局室に持ち込めない)。刊行物については決まりがなく、対局者の良識に委ねられている。

<第1回からつづく>

#1から読む
藤井聡太22歳や羽生善治53歳も対局中に席を外すけど…将棋と“トイレ休憩”ウラ話「特別対局室の個室が半開き」「秒読み中に“どうぞ”」

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