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藤井聡太22歳や羽生善治53歳も対局中に席を外すけど…将棋と“トイレ休憩”ウラ話「特別対局室の個室が半開き」「秒読み中に“どうぞ”」 

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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photograph by日本将棋連盟

posted2024/09/02 11:01

藤井聡太22歳や羽生善治53歳も対局中に席を外すけど…将棋と“トイレ休憩”ウラ話「特別対局室の個室が半開き」「秒読み中に“どうぞ”」<Number Web> photograph by 日本将棋連盟

藤井聡太七冠や渡辺明九段の対局を筆頭に、長時間の対局を見ていると必ず目にする“トイレ休憩”のウラ話とは?

 私こと田丸も現役時代、局面を冷静に見たいとき、勝敗につながる決断の一手を指したいときは、トイレに行って気持ちを整えたり、後に引けない心構えを決したものだ。ある人に「平静さを欠いたら、トイレで自分の陰嚢を指で包み込めば一時的に落ち着く」と言われ、実際に試したこともあった。

 トイレに行くタイミングも勝負の節目になっている。

 対局者は形勢が好転したとき、好手を発見したときは、得てしてトイレに行くものだ。小声でぶつぶつ言いながら足早に席を立ったときは、それが顕著である。

 本心と見かけの態度は別なのだ。私も内心にんまりとしながら、困ったような表情で席を立ち、トイレで勝勢を確認したことがあった。逆に敗勢になって勝負がついたとき、トイレで自分の負けを言い聞かせ、対局室に戻って投了したこともあった。

1手60秒の秒読みではトイレに行く余裕はなく…

 局面が終盤に進み、持ち時間が少なくなってくると、対局者は生理的な問題に直面する。持ち時間を使い切って1手60秒の「秒読み」に入るとトイレに行く余裕がなくなるので、残り数分のあたりで前もって用足しをしておく。しかし、形勢がもつれて長手数になったり、早い時期から秒読みに追われていると、生理的に深刻になってくる。水分は口にできないし、我慢にも限界がある。そんな状況で対局者は非常手段に出た……。

 前述した通り、将棋会館のトイレは対局室から近くにある。相手の手番のときに急いで往復すれば、60秒以内に指せそうだ。かなりの早業を必要とするが、実際に決行した対局者もいた。

 そういえば特別対局室の個室トイレのドアが半開きになっていた光景を見たことがある。時間を少しでも節約する工夫なのかもしれない。

順位戦で実際にあった「お手洗い行っていいですか?」

 1968年3月のB級2組順位戦で原田泰夫八段と佐伯昌優六段が対戦したときのこと。当時二段の田丸が記録係を務めたが、原田は勝てば昇級する一戦だった。激闘の末に終盤に突入し、原田が優勢と思われた。

 そんな状況で秒読み中の佐伯は「お手洗いに行ってもかまいませんか?」と声をかけると、原田は「どうぞ」と笑顔で応じた。佐伯がトイレに行っている間に指せば、原田は相手の時間切れで勝ったかもしれない。しかし、郷土の英雄である上杉謙信を崇拝する原田は清廉潔白の人で、謙信が敵将の武田信玄に「塩を送った」故事のように、相手の苦しさにつけ込むことをしなかった。

【次ページ】 田丸九段も、同じような経験をしたことが

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