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「視聴率は15%超え」14年前、高校生クイズはなぜ“神回”になった? 伊沢拓司ら開成高校が優勝の裏で、クイズ王が恐怖した「ナゾの進学校」
text by
山崎ダイDai Yamazaki
photograph by第30回全国高等学校クイズ選手権 DVDより
posted2024/09/10 11:02
クイズ王・伊沢拓司擁する開成が優勝した2010年の高校生クイズ。「知の甲子園」と呼ばれた同大会ではどんな戦いが繰り広げられていたのだろうか
当時、「高校生クイズ」の全国大会での問題形式は、概ね下記のように決まっていた。
・1回戦→30問~50問のボードクイズ 正答数上位8校が勝ち抜け
・準々決勝→7問先取の1対1対戦型早押しクイズ 勝利した4校が勝ち抜け
・準決勝→3問の勉強問題 上位2校が勝ち抜け(並んだ場合はサドンデス)
・決勝→10問先取の筆答ボード問題
1回戦に関しては、早押しなどはなく基本的に「知っているかどうか」の勝負になる。知識の幅という意味では、開成の3人には自信があった。
「上位8チームにはいることは3人の実力と得意ジャンルを考えるとそんなに難しいことではない。ここで重要なのはトップを獲ることでした。ここで自分たちが『知識負けしている』という想いを抱いてしまうと、2回戦以降で相手に吞まれてしまうかもしれない。逆にそういったプレッシャーを相手に与えられれば、有利に立ち回ることができるようになる」(伊沢)
実際に20問目を終えた時点で、開成は2位につけていた。
しかもこの順位はあまり事前対策のやりようがない漢字の問題でポイントを落としたことが大きかった。その意味では残り10問で大きなミスをしなければ、首位通過は十分にあり得る立場だった。
結果発表は、1位の高校からだった。
スタジオに用意された大型スクリーンに、通過校の姿が大写しになる。だが、そこに映ったのは――開成の3人ではなかった。
北海道立旭川東高校。北海道有数の公立進学校で、この年の全国模試で1位をマークした塩越希というエースを擁していた。なにより、関東と関西にほとんどの強豪チームが固まっている競技クイズの世界において、北海道の公立校というのはまさに伊沢がいうところの「競技クイズの埒外」から現れた刺客だった。
「1000問なら間違いなくウチが勝つ。でも10問なら…」
伊沢はこう振り返る。
「もちろん旭川東の存在自体は知っていたし、実力があることも分かっていた。でも、ここで1位を取るほどなのかと。特に他のクイズ強豪校とは違う『分からない』怖さがありました。1000問やれば間違いなくウチが勝つ。でも最初の10問なら、こちらが知らない知識を持っている可能性があった」
結局、開成は2位通過。そのほかの6校は、県立浦和(埼玉)、県立船橋(千葉)、慶應(神奈川)、水戸第一(茨城)、洛南(京都)、久留米大附設(福岡)が残った。ほとんどが関東圏のクイズ強豪校である。彼らは実力者ではあるが、なんども戦った経験がありその実力も手の内も、ほとんど理解している。
一方で、競技クイズの文脈にない存在である旭川東には、開成と知識の「重なり」が少ない可能性が高かった。そして、それこそが伊沢にとって恐怖の理由にもなった。