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「視聴率は15%超え」14年前、高校生クイズはなぜ“神回”になった? 伊沢拓司ら開成高校が優勝の裏で、クイズ王が恐怖した「ナゾの進学校」
text by
山崎ダイDai Yamazaki
photograph by第30回全国高等学校クイズ選手権 DVDより
posted2024/09/10 11:02
クイズ王・伊沢拓司擁する開成が優勝した2010年の高校生クイズ。「知の甲子園」と呼ばれた同大会ではどんな戦いが繰り広げられていたのだろうか
実はこの準々決勝では、田村もまた複雑な思いを抱えてスタジオに立っていた。
前年の「田村フィーバー」の影響もあり、自分が周囲から本当の実力以上に過大評価されていると思う瞬間もあった。それは裏を返せば、「田村はテレビで注目されているけど、実際の実力はたいしたことないんだろ」と思われているような、そんな想いにも繋がっていた。
もしかしたら、自分はクイズの実力は期待されていないのかもしれない。
それなら、誤答のリスクのある早押しは、伊沢と大場に任せるべきじゃないか。自分は一歩引いていた方がいいのではないのか。
「でも、心のどこかでは自分がそこまで弱いハズはないというプライドもあって。そこの葛藤は大会中、ずっと抱えていたんです」
田村がそんな逡巡を抱えたまま、開成の準々決勝の戦いは始まってしまった。
「第1問、すべてを飲み込む範囲とされるブラックホールの半け……」
準々決勝、久留米大附設戦の1問目。意外にも最も速くボタンを押したのは、伊沢でも、大場でもなく、その田村だった。
「シュバルツシルト」
落ち着いて出した回答に、正解音が鳴り響く。正式な問題文は「すべてを飲み込む範囲とされるブラックホールの半径を定義したドイツの天文学者の名前は何でしょう?」というものだった。
この答えを出した瞬間、田村には憑き物が落ちたような感覚があったという。
「高3で受験勉強もあって、知識の面はともかく反応速度がいる早押しのトレーニングはなかなかできなかったんです」
ところが、期せずしてその苦手な早押しで最初にポイントを獲ることができた。それは、メディア(正確に言うならば、+伊沢の戦略)が作り出した「主人公像」に搦めとられかけていた田村を、ひとりのクイズプレイヤーへと引き戻した。
「自分もちゃんと活躍できる。プレイヤーとして、力があるぞということを示せた。チームメイトの2人にもですし、何より周囲にそれを証明できたというのが、すごい嬉しかったんですよね」
実はこの段階で田村が覚醒したことは、続く準決勝で大きな意味を持つことになる。
準決勝は例年、受験問題に類する学問的な問題が出題される。そのため、チーム唯一の受験生である田村の肩にかかる比重が大きくなることが想定されていたからだ。
ここまではある意味で「作られた主人公」だった田村は、この問題を機に本物の主役のひとりへと変身することになった。
準々決勝を勝ち抜けたのは、浦和、県立船橋。そして…
結局、一進一退の激戦を経て、開成は久留米大附設に勝利する。大場の懸念の通り、簡単には勝ち切ることができなかった。最後は両チーム勝ち抜けにリーチになるという接戦ではあったが、終始、開成が先手を取っていたことが勝敗を分けた。
開成と久留米大附設の一戦の後は、続々と準決勝への進出チームが決まった。
勝ち上がったのは、浦和、県立船橋。そして、旭川東だった。
<次回へつづく>