翌日、準々決勝のために麹町に戻ってきた大場悠太郎は「もし負けるとしたら、ここだろうなぁ」と考えていた。

「私自身は伊沢と田村さんの実力に絶対的な信頼がありました。決勝まで行けば、競技クイズの分野で伊沢が負けるはずがない。準決勝は例年、計算問題や漢文といった大学受験問題の要素が濃い『勉強問題』が来ますが、田村さんは高3で受験勉強の真っ最中。理系の問題は大丈夫だろうと思ったし、漢文は私も伊沢も得意でしたから」

　一方で、早押しの7問先取という形式の準々決勝は、運の要素もある。

「たまたま向こうしか知らない問題が2～3問続いてしまったら、それだけで一気に形勢不利になってしまう。もし負けるなら、ここが可能性が一番高いと思っていました」

©Shiro Miyake

　だからこそ、相手がどこになるかは大きな問題だった。

「とにかく旭川東とは当たりたくないね」

　対戦カードは「厳正な抽選で選ばれる」と言われていた。だが、どこまで行ってもテレビのエンタメである。ある程度、興味を引きそうな2校をぶつけることは十分に考えられた。

「前日の宿舎では、『とにかく旭川東とは当たりたくないね』という話をしていました。この段階で当たれば五分五分か、何なら向こうの方が有利かもしれないという分析をしていて。何を知っているのかわからないのに、中途半端に強いということだけはわかっている。その怖さはとても大きかったです」（大場）

　一方で、伊沢の中には「ここで開成と旭川東はないだろう」という思惑もあった。

「僕の中ではこの年の『高校生クイズ』で主役に成り得るのは、“リベンジに燃えるイケメン”であるウチの田村と、“全国模試1位の公立の雄”である旭川東の塩越さんだと思っていました。その2校が対戦する構図なら、より上位のラウンドのほうが綺麗ですよね」

高校時代の伊沢（左）と田村／QuizKnock提供

　とはいえ、リスクは避けるにこしたことはない。

　MCから旭川東のことを聞かれても「対戦はあとに取っておきたいですね」と、テレビ的には肩透かしな発言を心掛けるようにした。

　結果的に、伊沢の読みは当たった。抽選で引いた対戦相手は、福岡の久留米大附設だった。

　当時、久留米大附設には新興のクイ研があり、しかも珍しく顧問も競技クイズの経験者だった。前年の「高校生クイズ」でもベスト8まで進出しており、強豪には違いなかった。ただ、それは裏を返せば伊沢の言う「クイズの埒内」での文脈で勝負できる相手ということでもあった。

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