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オリンピックPRESSBACK NUMBER
「日本人選手が食堂にいない…」いったいなぜ? パリ五輪「不評だった選手村の食事」のウラで…大躍進フェンシングを支えた“超人気店のおむすび”
text by
齋藤裕Yu Saito
photograph byRyosuke Menju/JMPA
posted2024/08/15 11:02
フェンシング男子エペ団体で銀メダルを獲得した日本(左から見延和靖、加納虹輝、山田優、古俣聖)。選手たちの胃袋を支えた“超人気店のおむすび”とは
筆者も高菜おにぎり(2.80ユーロ)を買ってみた。こういった海外の日本料理店は日本で食べるよりどうしても味が劣ってしまうものなのだが、「おむすび権米衛」を食べて驚いた。東北~北海道エリアのお米を使い、高菜の味付けも日本で販売されているテイストを再現。食べた瞬間「あ、日本のおにぎりだ」と郷愁の念すら覚える味だ。金メダルを獲得した加納も「日本のお米の味がしました。鮭が好きで2個いただきました」と笑顔を見せる。
知られざる“メダル宣言”「長丁場になるので当日昼に」
佐藤さんは大学卒業後、リヨン大学の大学院でフランスの食文化について研究を行ってきた。その知識を生かしフランスで食品コンサルタントとして活動。フランス人の味覚に挑戦し、飛び込み営業を行いながら未開のフィールドを切り拓いてきた。7年前の2017年頃からおむすび権米衛に関わり、今ではその背中を追うようにおむすびを扱う競合店も確認できるかぎりで20店舗以上パリに点在している。おにぎりブームを巻き起こした張本人だ。
そんなブームの火付け役が、2年前に出会ったのが、本場フランスの地で相手を倒そうと奮闘する見延和靖らフェンシングの選手だった。知人を通じて競技に懸ける見延の思いを知り、選手たちの人柄に感銘を受け、こう考えた。
「パリにいる人間として何ができるのか」
佐藤さんは自費で自らのお店のおむすびを提供することを申し出た。
7月にパリ近郊で行われたフェンシング日本代表の事前合宿。合宿中の食事会でも男子エペ以外の種目の選手たちを合わせた50人分の大量差し入れを敢行し、日本チームを喜ばせた。
そして、8月2日に行われた男子エペの団体戦にも差し入れを行った。見延からはこんなメッセージが来たという。
「長丁場になるので当日昼におむすびをお願いできますか」
おむすびを関係者に届けたのは12時半過ぎ。具材を詰め、握ったおむすびを代表自ら試合会場へと運ぶ。運び終えた佐藤さんは会場の外で見延の「長丁場」という言葉を思い出し、ひらめく。
「これはメダルを取る宣言だ」
団体戦は初戦で敗れると5位から8位を決める順位決定戦に回り、夕方頃に終了してしまう。「長丁場」は夜に行われるメダルマッチを意味していた。佐藤さんの予想通り、日本は決勝まで進み、延長戦でハンガリーに敗れるも笑顔の銀メダルを獲得した。
フェンシング日本代表の中で最年長の見延は佐藤さんへの感謝を口にする。
「支えてくださってありがたいです。というか、本当に頼りにしています(笑)」
フェンシングの母国・フランスを圧倒する活躍を見せた日本フェンシングの躍進。その裏側にはパリで奮闘する超人気店のおむすびがあった。
<前編「パリの物価事情」とあわせてお読みください>