甲子園の風BACK NUMBER
ボール直撃で“顔面骨折の球児”は今「高校野球をつまらなくしてしまった」低反発バット導入の発端に…岡山学芸館の本人語る“野球への本音”
text by
井上幸太Kota Inoue
photograph byJIJI PRESS
posted2024/08/16 06:02
2019年夏、相手打者が放ったライナーが直撃し、病院に搬送された岡山学芸館・丹羽淳平
7月初旬、インタビューは、兵庫にある丹羽の行きつけの居酒屋で始まった。注文を委ねると、流ちょうに注文を済ませる。丹羽おすすめの品々がテーブルに並んだところで、まずはライナーを浴びた夏の思い出を尋ねた。
冒頭の打球が迫りくる状況の証言をはじめ、丹羽の記憶は鮮明だった。
直撃する直前はすべてが白黒のスローモーションのように映ったこと。痛みよりも「もう投げられへんのか」という悲しみが勝ったこと。次戦に出場するための助けになればと、初戦後に岡山の病院で診断書を取得するも、大会本部に受け取ってもらえず、「終わった」と覚悟したこと……。当時の状況と心境がありありと伝わる回想は、5年の時を感じさせなかった。
「高校野球をつまらなくしてしまった…」
場が温まったところで、本題を切り出す。「新基準バットの導入と合わせて、丹羽さんの一件を再び見る機会が増えましたね」。私が投げかけると、丹羽はビールジョッキを傾けた後に苦笑しつつ、こう答えた。
「一番は単純に申し訳ないなって。『高校野球をおもんなくしてしまった、歴史を変えてしまった』という。自分も今年のセンバツを見てて、ホームランが減ったのは寂しかったんで」
あのライナーは決して、丹羽が野球人生で見た“最速”の打球ではなかった。投球フォームのフィニッシュで三塁側に少し体が流れ、体勢を切り返す必要があったこと、何より打球と顔の高さが一致した故に起きた事故だった。「対応できたのではないか」という思いもまた、丹羽に後悔の念を駆り立てた。
「センバツ期間中、結構、知り合いからも連絡が来たんですよ。『お前のせいで、おもんなくなったわ』みたいな(笑)。もちろん、大半は“ちょけ”(関西弁の「ふざけ」)なんですけど。あとはティックトックに、ライナーの場面の切り抜き動画が載って、そこから自分のインスタに連絡が来たこともありましたね」
「飛ばない」から試行錯誤できる
丹羽が、私の横に置いてある荷物を見つめる。視線の先にあったのは、取材の助けになればと持ってきた、新基準の金属バットだ。