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ボール直撃で“顔面骨折の球児”は今「高校野球をつまらなくしてしまった」低反発バット導入の発端に…岡山学芸館の本人語る“野球への本音” 

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井上幸太

井上幸太Kota Inoue

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posted2024/08/16 06:02

ボール直撃で“顔面骨折の球児”は今「高校野球をつまらなくしてしまった」低反発バット導入の発端に…岡山学芸館の本人語る“野球への本音”<Number Web> photograph by JIJI PRESS

2019年夏、相手打者が放ったライナーが直撃し、病院に搬送された岡山学芸館・丹羽淳平

「今年からピッチャーの二段モーションもOKになったじゃないですか。兄のせいでバットが変わっただけじゃなくて、色々とピッチャー有利の状況になっている。『抑えなあかん』みたいにプレッシャーを感じてると思うんで、ちょっと心配なんですよね」

 結果として、丹羽の心配は杞憂に終わった。知則は183センチの長身が生み出す角度を武器に、夏の岡山大会3回戦で優勝候補の創志学園相手に1失点完投。決勝でも、1点リードの9回にクローザーとして登場し、三者凡退で5年ぶりの夏の甲子園出場を手繰り寄せた。

 試合後、知則に「大会前、お兄さんが『バット変更がプレッシャーになってるんじゃないか』と心配していたよ」と伝えると、兄にそっくりな笑顔を見せながら、事もなげに言った。

「むしろ、自分から野手陣に謝ったんです。『兄貴のせいでバット飛ばなくなってごめんな』って」

 兄は5年前の決勝で先発し、7回途中1失点と好投。弟は決勝のしびれる最終回に登板し、無失点リリーフ。強心臓と軽妙なトークはDNAだ。

 知則は、甲子園でも初戦の最終回に無失点リリーフで試合を締め、2回戦では掛川西を7奪三振でシャットアウト。兄を超える甲子園2勝に貢献しただけでなく、熱い投球で聖地を沸かせ、兄の「高校野球をつまらなくしてしまった」思いも払しょくした。

再び野球をはじめて…丹羽さんの今

 一度は大学で野球に区切りを付け、現在は大阪府内の企業で不動産営業にまい進する丹羽だが、就職後、様々な縁が重なって軟式野球に挑戦することを決めた。中日でプレーした平田良介も所属する、「エースファクトリー」に入団した。ポジションは、高校時代以来の投手だ。

「野球人生は引き際も大事だ、と思って、野球って面白いなと思えた大学で一旦はやめようと思ったんですけど、営業で知り合った方を通じて、声を掛けていただいて、もう一度やろうと決めました。今は(社会人軟式野球最高峰の大会である)天皇賜杯を目指して頑張ってます」

 こう話した後、「ただ……」と言葉を続ける。

「軟式の『レガシー』(ミズノ社の複合バットの「ビヨンドマックスレガシー」)の打球、やばいっす。絶対、あのときの打球より速い(笑)」

 丹羽は、思い出も、近況も、野球にまつわる話を終始楽しそうに語った。その横顔を見て、会いに行ってよかったと、しみじみ思った。

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