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今季2勝目の小椋藍がMoto2タイトルにこだわる本当の理由と、アライユーザーなのに「MTヘルメット」チームで走れるわけ《来季のMotoGP昇格は?》
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2024/07/03 17:00
伝統の一戦オランダGPのMoto2クラス決勝レースでトップを走る小椋。このまま逃げ切って今季2勝目を挙げた
オランダGPの舞台となるアッセンは、1949年に始まり今年で76年目を迎えるグランプリの歴史の中で、唯一同じサーキットで開催されてきた伝統ある大会である。2020年の新型コロナによるパンデミックで一度だけ開催中止となったが、今年で75回目の開催となった。
この76年の間にコースは何度も改修され、その時代に合ったサーキットへと生まれ変わってきた。コースの安全性はもちろん、サーキットを取り巻く施設や環境、道路のアクセスも素晴らしく、10万人を超える観客がストレスなく訪れることができる世界一のサーキットでもある。伝統とは何かということを教えてくれる素晴らしい大会で、小椋は見事優勝を果たしたのだ。
今年はホンダ・チーム・アジアからスペインのマドリードに拠点を置く「MTヘルメット-MSI」に移籍。チームのメインスポンサーはMTヘルメットだが、「レースをするための道具で唯一変えたくないと思っているのがヘルメット」と小椋は、レースを始めたときから日本のアライヘルメットを着用している。昨年のMSIとの移籍交渉でも「アライをかぶれることが移籍の条件」となったが、今年からMoto2に参戦する新規チームのMSIは小椋の要求を呑んだ。チームとして1年目のMSIが何よりも欲しいのは結果であり、だからこそMSIは小椋の獲得に動いたわけだが、メインスポンサーのヘルメットメーカーと違うヘルメットをかぶるというのは異例である。
新規参入チーム内でのチャンピオン争い
その小椋の加入で刺激を受けたのか、チームメートのガルシアは8戦を終えて2勝を含む5回の表彰台で138点を獲得し、目下総合首位と大ブレイクを果たした。小椋は2勝を含む3回の表彰台獲得で124点の総合2位。つまりMoto2クラスは、新規参入のチームメート同士のチャンピオン争いとなっている。
マドリードを拠点とするMoto2クラス2年目のガルシアとバルセロナを拠点とする小椋は、サーキットとホテルの往復、そしてスペインから大会への移動も到着地で合流して同じクルマで移動することが多い。二人の「良い関係」はウインターテストから変わらないが、最近のことについて小椋は「さすがにタイトル争いになってくると、なんていうのかな、秘めたる闘志みたいなのを感じますね」と語っていた。
小椋は「自分も2年目のシーズンは一番成長した。ガルシアも去年のシーズン終盤は良くなっていたし、今年は成長のシーズンですね」と語る。その2年目の22年シーズン、小椋は最終戦までチャンピオン争いを繰り広げたが惜しくもタイトルを獲得できなかった。そしてチャンピオンが期待された昨年は開幕前の怪我と新しくなったカレックスの車体に苦戦し、表彰台3回にとどまる総合9位でシーズンを終えた。移籍した今年は車体もカレックスからボスコスクーロに変えて、再びチャンピオン争いに加わることになった。