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「取り損ねたのが見えて、渡さなきゃって」マラソン“あの給水アクシデント”を救った加世田梨花が明かす本音…レース後にあふれた“涙の理由”
posted2024/06/16 11:01
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph by
L)TakuyaSugiyama、R)JIJI PRESS
今年3月、パリオリンピック出場枠を争う“最後の舞台”となった名古屋ウィメンズマラソンで、ひとりのランナーが注目を集めた。加世田梨花(25歳)はなぜ、五輪を目指すライバルに手を差し伸べたのか。インタビューで加世田本人が打ち明けた本音とは――?《NumberWebインタビュー/全3回の初回》
困っている人を見かけたら、放ってはおけないタイプなのだろうか。
そう問いかけると、加世田梨花は少し困ったような笑みを浮かべた。
「どうですかね。あまりそういうシチュエーションになったことがないので……。でも、あの時は自然とそうなったというか、気づいたら給水を手渡してました」
彼女の人間性に注目が集まったのが、今年3月に開催された名古屋ウィメンズマラソンでのひとこまだった。
オリンピックを目指す最大のライバルに、惜しげもなく力水を手渡す。給水時の心温まるシーンを覚えている人もいるだろう。詳細を振り返れば、こんな場面だった。
パリ五輪“最後の一枠”を争う大会でのアクシデントだった
レースはパリオリンピックの女子マラソン日本代表を決める最後の一枠の選考を兼ねていた。優勝候補の一人が、昨年の世界陸上に日本代表として出場した加世田で、実績などから鈴木亜由子(JP日本郵政グループ)と安藤友香(ワコール)を含む三つ巴の争いになることが予想されていた。
アクシデントが起きたのは、10kmの給水ポイントである。
加世田の前を走る鈴木がスペシャルドリンクを取り損ねる。続くゼネラルの給水にも2度失敗し、大事な水分補給ができなかった。
テレビ画面越しに見ても、鈴木はあきらかに落胆したように見えたが、そこに手を差し伸べたのが加世田である。わずかにスピードを上げて横に並びかけると、ためらうことなく自らの給水ボトルを差し出したのだ。