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「取り損ねたのが見えて、渡さなきゃって」マラソン“あの給水アクシデント”を救った加世田梨花が明かす本音…レース後にあふれた“涙の理由” 

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小堀隆司

小堀隆司Takashi Kohori

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photograph byL)TakuyaSugiyama、R)JIJI PRESS

posted2024/06/16 11:01

「取り損ねたのが見えて、渡さなきゃって」マラソン“あの給水アクシデント”を救った加世田梨花が明かす本音…レース後にあふれた“涙の理由”<Number Web> photograph by L)TakuyaSugiyama、R)JIJI PRESS

パリ五輪の枠が決まる3月の名古屋ウィメンズマラソンにて、鈴木亜由子に給水ボトルを手渡し話題を集めた加世田梨花

加世田が明かす当時の心境「自然と渡さなきゃって」

 この姿を見たテレビ解説者の有森裕子さんは「本当に素晴らしい」とスポーツマンシップを絶賛。ゲストの高橋尚子さんも「最後の一人を狙う厳しいところで、渡すこともそうなんですけど、なにより鈴木亜由子さんが取れていないことをしっかりと見えている。その視界の広さと落ち着き感が非常に良いと思います」とレース巧者ぶりに賛辞を送った。

 だが、加世田にとっては、取りたてて逡巡するようなことではなかったようだ。

「ちょうど亜由子さんとスペシャルドリンクのテーブルが同じで、私が後ろのポジションだったこともあって、取り損ねたのは見えていたんです。自分はスペシャルドリンクも、その後のゼネラルも両方取れたんですけど、亜由子さんはゼネラルも取れなかったみたいで……。じつは私も過去に何度か給水で失敗したことがあるんですけど、給水が取れないとけっこうメンタル的にきつくなるんですね。だから、自然と渡さなきゃって」

「一緒に頑張ろう、という気持ちがあった」

 そのとき思い返していたのは、世界陸上に出場した際のことだった。8月のブダペストは暑く、レースは集団で進んだ。中ほどに位置していた加世田は給水が取れなかったが、その時に手を差し伸べてくれたのがダイハツの先輩である松田瑞生だった。選手は勝ち負けを競うライバルだが、共にマラソンに挑む仲間でもある。先輩にはそう教わった、と加世田は考えている。

「あの時、私は脱水症状気味で、水を飲むことさえなんか気持ち悪い状態でした。せっかく渡してくれたのに、『大丈夫です』って断ってしまったんです。今でもそれはいじられるんですけど(笑)、取れなかった仲間がいたら自然と渡すもの。私もそうあるべきだと思っていて。だから名古屋の時も、一緒に頑張ろうという気持ちはあったと思います」

 レースは後半、加世田と安藤が日本人の先頭を争う状況に。しかし、33km過ぎに安藤がスパートすると、加世田はそれについていけなかった。終盤になると鈴木にもかわされ、結果は4位。パリ五輪の女子マラソン日本代表3人目は、優勝した安藤もタイムで及ばず、1月の大阪国際女子で日本記録を更新した前田穂南(天満屋)に決まった。

【次ページ】 レース後にあふれた“涙の理由”

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