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工藤公康“ソフトバンク2年目”に起きていた事件「監督、あれはマズいですよ」優勝逃した“チームの予兆”「私が間違っていた」名将が泣いた日
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byYuki Suenaga
posted2024/06/01 11:05
ソフトバンク元監督・工藤公康がNumberWebのロングインタビューに応じた
選手の指摘「監督、あれはマズいですよ」
1人の選手から「監督、あれはマズいですよ」と指摘された。事の重大さに気づき、その選手には直接謝罪をした。思えばこれは、あくまで1つの事例に過ぎず、監督になってからというもの、選手や周りに対して、一方通行のコミュニケーションになっていたのかもしれない。選手との間には溝が生まれていた。このシーズンも一時11.5ゲーム差をつけて首位に立ち楽勝に思えたのが、ベンチの雰囲気がまとまらないまま、夏場以降に失速してまさかまさかの大逆転V逸を喫したのである。
「監督になって最初の年にリーグ優勝して日本一にもなって、ある意味で勘違いをしてしまったというか、周りからも調子に乗っているように見えたと思います。背景も知らずにあのような発言をしてしまったりして、選手を傷つけてしまった。そんな監督に選手がついてくるはずありません。私が間違っていました。自分自身が変わらなきゃいけないと強く思いました」
「監督の仕事」とは何か?
選手たちとの接し方や話し方が自分主導になり、起こったことにすぐ反応して言葉に出してしまっていたのではないか。選手だけでなくコーチやスタッフに対してもどうだったか。自身の言動を顧みて熟考すると、徐々に自分のすべき道筋が見えてきた。
「監督の仕事とは何か。以前は監督がみんなに指示をして、その通りにチームが動くというイメージを持っていました。しかし、そればかりだと自分の考えの押しつけになってしまいます。まずは相手の話を聞くこと。例えばコーチから練習方法などの提案があったら、否定せずに『まずやってみよう』と返すようにしました。最初は相手もびっくりしていましたよ。本当にいいんですか、と聞き返されるものだから『まずやってみないと判断がつかないからね』と話す。そこから始めました。もし、上手くいかなくても話し合いながら変えていく。今まで“押しつけ”だったのが“提案”に変わるわけです。失敗を許容する。それを意識しました。ただ、自分自身をすぐに変えることができたわけではなく徐々に、徐々に、ですね。3年……いやもっと時間はかかったと思いますし、最後まで完ぺきにやれたとも思っていませんが」
“トレーナー”との関係…なぜ大切?
また、工藤が特に神経を注いだのは球団トレーナーとの関係構築だったという。なぜ監督とトレーナーなのか。まずはプロ野球の舞台裏を説明した方がいいだろう。