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長谷部誠33歳「監督は何を考えてるんだろう」衰退期のはずがドイツで大絶賛“リベロ長谷部”誕生ウラ話「コンバートがなかったら全然…」
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byJan Huebner-Pool/Getty Images
posted2024/05/26 06:01
2016-17シーズンを前にした長谷部誠。当時、リベロでの覚醒の時を迎えるとは本人も予想し得なかっただろう
「自分がリベロをやったことで見えた景色があって。その後にボランチをやると『自分はまた良くなっているな』という感覚がありました」
例えば、長谷部が日本代表として最後に戦ったロシアW杯。相手がハイプレスをかけてきたセネガル戦などは、リベロを経験した恩恵を受けたと言えるだろう。
あの試合はビルドアップの入口を長谷部が、出口を乾貴士が作ることで、相手のプレスを回避した。
2-2の打ち合いとなったためゴールシーンばかりが話題になったが、以前の日本であれば、強度のハイプレスにやられていた可能性がある。長谷部の進化を感じられる場面だった。
任されたPKキッカーと、鎌田とのエピソード
余談だが、長谷部はコバチが指揮していた2016-17シーズンにはPKのキッカーも任された。しかも、2シーズン前にブンデスリーガの得点王に輝いたマイヤーを押しのけてのものだ。
実際、第19節のダルムシュタットとのダービーではプレッシャーのかかる状況で、PKをしっかりと決めてみせた。
コバチ監督が、ドイツに渡ってから戦術面で長谷部をもっとも評価したのは間違いない。ただ、コバチは長谷部のメンタリティについても最高級の評価を与えていた。でなければ、元得点王で「サッカーの神様」とも称されたマイヤーに代わるPKキッカーを任せるはずはないのだから。
2022-23シーズン、フランクフルトで鎌田大地がPKキッカーを任されたことは大きな話題になった。あるいは、2021-22シーズンのEL決勝のPK戦でグラスナー監督が「3番手のキッカーは大地か長谷部に任せたい」といった時に、鎌田が手を挙げ、PKを決めたエピソードは有名だ。試合後に長谷部が鎌田に向かって「お前が蹴ってくれてよかった」と伝えたことも有名だ。
ただ、鎌田よりも前にフランクフルトで長谷部が重責を担っていたのは、歴史に埋もれてしまいそうだが――決して見落としてはいけない事実だ。
なぜ、長谷部が試合に出るとチームが安定するのか?
では、コバチ監督にそこまで高く評価されたのは何故だったのだろうか。
その答えは、吉田麻也のような現役選手から、長谷部の出場する試合を解説する日本代表OBの間でも、ずっと語られてきたテーマとつながる。
「なぜ、長谷部が試合に出るとチームが安定するのか?」
長谷部の特長は速く走れることでも、高く跳べることでも、たくさんゴールを取ることでもない。
長谷部の最大の長所は、「監督の意図と期待に応える能力」なのではないだろうか。