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長谷部誠33歳「監督は何を考えてるんだろう」衰退期のはずがドイツで大絶賛“リベロ長谷部”誕生ウラ話「コンバートがなかったら全然…」
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byJan Huebner-Pool/Getty Images
posted2024/05/26 06:01
2016-17シーズンを前にした長谷部誠。当時、リベロでの覚醒の時を迎えるとは本人も予想し得なかっただろう
レベルの高低こそあれ、どんな監督もチームが機能しているところを頭に思い描いて戦術や戦略を練り、それを実現させるためにベストだと思える選手を起用する。相手に合わせ、長谷部の役割やポジションを変えることで、戦い方に変化を加えることにしたのは、「長谷部は自身の求めるサッカーを表現してくれる適任者だ」とコバチ監督が考えたから。
つまり、長谷部の本当の長所とは何なのかを私たちに言語化して、理解させてくれた偉大なる指揮官と言えるのかもしれない――。
リベロへのコンバートで“最低でも5年”は…
スカパー!で再配信・再放送中の番組『ブンデスリーガアーカイブス 長谷部誠 フランクフルト編』でのインタビュー時、長谷部にコバチとの出会いについて筆者はこんなことを尋ねた。
「コバチ監督と出会って、キャリアが延びた感覚はありますか?」
長谷部の答えは驚くものだった。
「彼が自分をあそこの位置で使ってくれたことで、僕のキャリアを“最低でも5年”くらいは延ばしてくれたかなと。リベロへのコンバートがなかったら、全然違うキャリアになっていたと思います」
そして、大団円は2018年W杯直前のドイツ杯決勝だった。コバチは翌シーズンからバイエルンの監督になることが決まっていたが、決勝の相手がそのバイエルンだった。
「99%の人はバイエルンが勝つと思っていました。でも、自分はそのなかで重要な役割を果たせました」
長谷部がそう振り返る試合で、フランクフルトは3-1で頂点に立った。30年前にドイツ杯を制覇してからタイトルから遠ざかっていただけに、クラブだけではなく、街全体がこの優勝に沸いた。長谷部自身にとってもクラブレベルで9年ぶりとなるタイトルで、喜びを隠そうともしなかった。
やっていても楽しい感覚が本当にあるんですよ
「ドイツへ渡ってから1、2を争うような良いシーズンだったと思いますね。個人的にも年齢を重ねたことによる経験からくるもの……自分がいることで様々なバリエーションをチームに与えられたと思うので。そういう意味で、自分の存在意義をチームの中で見いだせた部分もありますし。スプリント力とか、そういうものは落ちているのかもしれないですけど、そうではないところで勝負できているので。やっていても楽しい感覚が本当にあるんですよ」
多くの選手が衰退期に入る33歳という年齢で、長谷部は自身の新たな役割を見出してくれるような指揮官と出会った。
では、そのような運命をたぐりよせられたのは何故なのだろうか。
明確な答えは存在しないかもしれない。ただ、その理由はニュルンベルク時代の最後のエピソードが象徴しているように、人との縁や恩義を長谷部が大事にしてきたから。中田英寿にも“ある相談”をするなど――30代後半以降もプレーヤーとして円熟していく彼の姿とともに、そう思わずにはいられない。
<つづく>