濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「あの事件で、女子プロレスが野蛮だと…」明かされる“喧嘩マッチ”の舞台裏…映画公開でも話題の岩谷麻優は「ズタボロの時期」を乗り越えて
posted2024/05/17 12:05
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Norihiro Hashimoto
“スターダムのアイコン”岩谷麻優をモデルにした映画『家出レスラー』が公開される。最大の見どころは、主人公マユを演じる平井杏奈の“岩谷麻優ぶり”だ。ふとした表情や口調、仕草が岩谷本人にしか見えない瞬間が何度もある。
歴史上の人物なら、人物像の解釈に幅をもたせることができる。だが岩谷はリアルタイムで活動している。描かれる彼女の半生は近い過去。ここ十数年の出来事だけに“あれが違う、ここが違う”が気になりやすい。にもかかわらず、平井は岩谷に見える。
引きこもりの少女が一念発起、家出して新団体スターダムに入門する。デビューにこぎつけてもスタミナは3分しかもたず、それでいて練習嫌いの天才肌。岩谷とスターダムの歴史を手際よく整理して、映画は“ポンコツ”から“アイコン”への軌跡を辿っていく。
「麻優より麻優を理解してくれてる」
平井の役作りは減量から。プロレスラーとしては細身の岩谷を演じるにあたり、撮影前にはプロレス特訓をしながら1カ月弱で体重を13kg落としたそうだ。
「移動中は音楽じゃなく、記者会見や配信動画で岩谷さんが話すところをずっと聞いてました。3カ月続けて、岩谷さんの声のトーンや喋り方が自分に入ってきましたね」
レスラーを演じる役者たちは、自身も出演するトップ選手・朱里の指導で基礎からプロレスの練習に取り組んだ。平井は「ドラゴンスープレックスがカウント2で返された時のブリッジの崩れ方」まで聞いて岩谷を驚かせた。
「一度お会いできませんかって誘われて、食事したんですよ。杏奈ちゃんは減量してたからほとんど食べてなかったですけど。スマホのメモ帳に質問がギッシリ書き込んでありました。“この時はこの選手をどう思ってましたか”とか“ファンの人たちをどう思ってますか”、“入場する時の気持ちはどんな感じですか。ルーティーンはありますか”みたいに細かく。もう“尋問”でしたね(笑)。
それが終わると台本を見せてくれて。セリフ一つひとつに細かい説明、心情が書いてあるんですよ。それも“違うところがあったら教えてください”って。でも全部合ってました。麻優より麻優を理解してくれてるなって思ったので“杏奈ちゃんが思う麻優を演じてくれたら大丈夫”と伝えました。撮影現場を見に行った時も、直すところは何もなかったですね」
危険な技の場面では岩谷本人がスタントを担当
プロレスラーの日常を体感するために、1日中ジャージで過ごすこともあったという平井。岩谷麻優という存在を探求する中で、プロレスそのものにも惹かれていった。
「会場で試合を見させてもらって感じたのは、選手それぞれにドラマがあるということ。ただ闘っているだけではないんですね。それに同じ技を出しても、選手によって個性が出る。だから余計に、岩谷さんらしい技の掛け方、受身の取り方を意識しました。今は会場に行けない時はPPVを買って見るくらい、プロレスが好きになりました」