濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「あの事件で、女子プロレスが野蛮だと…」明かされる“喧嘩マッチ”の舞台裏…映画公開でも話題の岩谷麻優は「ズタボロの時期」を乗り越えて
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2024/05/17 12:05
“スターダムのアイコン”岩谷麻優。5月17日より、モデルとなった映画『家出レスラー』が公開となる
劇中の試合の撮影では、危険な技などの場面で岩谷が平井のスタントを担当したそうだ。岩谷を演じる平井の代わりに岩谷が技を出す。つまりその瞬間は岩谷が岩谷を演じていることになる。そうした、リアルとフィクションの境目も映画の面白さだと言っていい。
「あの“事件”があって、女子プロレスが野蛮だと…」
朱里が演じるのは岩谷のライバル・羅月。岩谷と同じスターダム1期生・東子役のゆきぽよ(木村有希)も好演している。それぞれのモデルが誰なのかは、プロレスファンならすぐに分かるはず。映画はあくまで“事実をもとにしたフィクション”だが、やはり現実の出来事、リアルな感情は欠かせない。
たとえば「東子」が対戦相手の顔面を拳で殴りつけた、凄惨な喧嘩マッチ。これは実際にもあったものだ。ネガティブな意味で大きな話題になってしまい、スターダムは存続の危機を迎える。岩谷も、キャリアの中で最もきつかった時期だと言う。
「あの“事件”があって、選手の大量離脱もあって。変な意味で女子プロレスが野蛮だと思われてしまうような出来事でした」
筆者はこの試合の翌日、他の選手のインタビューでスターダムの事務所を訪れた。取材中も事務所の電話が鳴っていたのを覚えている。留守番電話に吹き込まれるのは批判、クレーム。あるいはそのレベルを越えた言葉だ。叩いてもいいと判断した相手には容赦がないのは、SNS時代以前も同じだった。
岩谷は“加害者”となってしまった選手に寄り添った。
「一番仲のいい同期でしたから。その子のメンタルがどうだったかも見てるんです。だから本当にきつかった……」
「自分もメンタルをやられた時期があります。でも…」
スターダムは2019年、上場企業ブシロードに事業譲渡。そこから飛躍的に売上と知名度を高めた。しかし1期生として見て、経験してきたスターダムの歴史は「平凡でも順調でもなかったです」と岩谷。
「ズタボロだったんですよ。いろんなことを乗り越えての今なので」
スターダムの1期生であること、アイコンと呼ばれることに誇りがあるのも「ズタボロ」の時期を知っているからだ。
「ただ長くいるだけじゃないんです(笑)。自分もメンタルをやられた時期があります。でもなんとかなるんですよ、人生って。本当にいろいろ乗り越えすぎて、何があっても“なんとかなる”って思うようになりましたね。なんとかなる精神。それはロッシーイズムでもあるんですけど」
ロッシーとはスターダム創設者、ロッシー小川氏のことだ。小川氏をモデルにした人物は、映画にも登場する。演じるのは竹中直人。ところが、映画の公開を前に小川氏はスターダムを去った。今年2月、エグゼクティブ・プロデューサー就任期間中に新団体設立に動いたことで契約解除となったのだ。