ボクシングPRESSBACK NUMBER
井上尚弥“PFP1位”激論の真相「英国人記者の発言が…」米リング誌の日本人パネリストが明かす舞台裏と投票内容「井上は胸を張るべきだ」
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph byTakuya Sugiyama
posted2024/05/13 11:04
米リング誌が選定するPFPランキングで1位に返り咲いた井上尚弥。2年前は一票差の大接戦だったが、今回は2位に大差をつけた
ウェインライト氏以外にもクロフォード1位を主張したパネリストがいなかったわけではない。イギリスのトリス・ディクソン氏、アメリカのアダム・アブラモビッツ氏はクロフォードを支持したが、それでも現地9日夜時点での1位票で井上が8−3と大差をつけた。
まだ12人のパネリスト全員が投票したわけではなかったが、もう逆転は不可能。そんな経過を見て、もともと現地10日朝にランキング更新を予定していたリング誌は9日のうちに“井上王座返り咲き”の発表に踏み切った。
井上を愛する日本のファンに敬意を表し、日本時間の金曜朝にインパクトの大きな形で公表したいという意図があったのかもしれない。
軽量級離れしたKO劇に賞賛の声
こうした流れを見れば明白なように、今回、井上がクロフォードを凌駕する決め手となったのは試合頻度の違いだった。昨年7月、クロフォードはエロール・スペンスJr.(アメリカ)を、井上はスティーブン・フルトン(アメリカ)をそれぞれ完璧な形でKOした。その際は対戦相手の格の違いもあってクロフォードが1位に推されたが、36歳になった通称“バド”は以降、一度もリングに立っていない。8月、スーパーウェルター級への転向、いきなりのタイトル挑戦が内定しているが、その試合が予定通りに行われたとしても1年以上、試合から遠ざかることになる。
その間、井上は昨年12月にマーロン・タパレス(比国)、先日はネリと階級トップクラスの選手を連続KOした。短期間にバンタム、スーパーバンタム級の4団体統一を果たし、圧倒的なKO劇を続ける“モンスター”が評価されたのは当然だろう。もともと井上、クロフォードの差はわずかと目されていたのだから、これだけ試合ペースに差がつけば順位が逆転するのは自然の流れだった。
アクティビティ(試合頻度)の違い以外にも、上記通り、グレイ氏はネリ戦でダウンを喫した後の井上の適応能力を絶賛していた。また、アルゼンチンのモリーリャ氏は「稀有なパワーと勇気が井上をより特別な選手にしている。ネリを沈めたコンビネーションは近年、他の誰もお目にかかっていない」と述べ、軽量級離れしたKO劇でファンを魅了し続ける井上のインパクトを特筆していた。
これだけの要素が揃えば、まだ満票ではなかったとしても、もう誰にも文句は言わせまい。