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マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「卒業生の6割が東大へ」“日本一の進学校”筑駒高の野球部で強豪を撃破…《東大野球部→銀行マン》のエリートが監督就任で感じたこと
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by(L)JIJI PRESS、(R)本人提供
posted2024/05/11 11:01
日本一の東大進学率を誇る超進学校の筑波大附属駒場高校(左)。東大野球部OBの朝木秀樹氏は昨夏まで野球部の監督を務めた
日常のミーティングも、最初は朝木監督が主導権をとっていたが、それだと時間的に長くなって、選手たちの勉強時間が減る。
「選手たち同士で話し合う形にして横で聞いていると、結構いいこと言ってるんですよ。行き詰まると、こっちに訊いてくる。相談相手みたいな立ち位置ですね、私は。練習も選手主導、コミュニケーションも選手主導。選手たち、どんどん変わってくるなぁって」
若者の成長を実感する一方で、ジレンマを感じる瞬間もあった。例えば昨年の「筑駒」は、野球の技量も歴代有数ぐらいのレベルにあって、春の練習試合で野手全員がレギュラーの横浜隼人高に勝利するほどの勢いだった。
「それなのに、チャレンジしない。今の高校生は、ほんとにチャレンジしないですね……」
そこが、とても、とてももどかしいと朝木さんはなげく。
「何ごとにも現実的な発想になるの、しょうがないのかな」
「夏の大会の目標を語り合った時に『今年のチームなら西東京のベスト16ぐらいいけるんじゃないか』って発言が出て。どうするのかなと見ていたら『じゃあ、目標ベスト16』って。おいおい、ちょっと待てよ。ベスト16の実力を感じてるんだったら『目標ベスト8』じゃないのか、ベスト4でもいいんじゃないのか。スポーツなんて、何が起こるかわからないじゃないですか。なんでそんなに現実的なんだろうって」
若い時期はもっと無鉄砲で、もっと野心的でいいのに。それがスポーツをやってる者の特権じゃないのか。
「彼ら、失敗したくないんですね。筑駒の生徒たちって、東大受かるのが当然なんです。学校の雰囲気もそうだし『みんなが東大行くのに、自分だけ行けなかったら……』みたいな空気があるんです。そういうところで高校生活過ごしているから、何ごとにも現実的な発想になるの、しょうがないのかなって。最初は私も、ずいぶん夢を語ったんですけどねぇ」
もしかしたら……。朝木さん、ちょっと考える顔になった。
「若者がチャレンジしなくなったのは、大人がチャレンジしないからなのかもしれないですね」
人生初の教育者としての日々を送って、1カ月が過ぎようとしている。今の高校生の気質、横浜隼人という学園の雰囲気。さまざまなものが少しずつ伝わってきている初夏、5月。
「手前みそになりますが」と前置きして、朝木さんが嬉しそうに話し始めた。
「朝、車で学校に着いたら、入り口にコーンが置いてあったんですね。それを見た生徒の1人が、向こうからサーッと走って来て、どかしてくれたんですよ。こんなこともあったなぁ。生徒の親御さんみたいな方が玄関のところで、行き先がわからなくて、女生徒に訊いているんです」