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大阪桐蔭→巨人ドラ1で一軍登板なし「156km左腕」は秋田で現金輸送の警備員になっていた…辻内崇伸が語る「普通の人になれたことが嬉しい」
posted2024/05/13 11:00
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph by
JIJI PRESS
JR秋田駅から車で15分ほど。辻内さんはセキュリティサービス会社「ALSOK秋田」で業務に精励していた。185cmの長身を包んだ紺色の制服姿は、他の社員に比べて一回り大きく見える。巨人での現役時代、晩年に見せていた苦悩の色は抜け、その顔には柔和な笑みが浮かんでいた。
「今、めちゃめちゃ楽しいんです。職場が楽しくて、仕事が楽しくて……。こんなに楽しい仕事ってないな、って思います」
防弾ベストにヘルメット
現在は「警送」という警備輸送業務に従事する。二人一組で大きな現金輸送車を運転し、県内各地を回ってATMに現金を装填したり、顧客の現金を輸送することが主な仕事だ。危険も伴うため、普段は制服の上に防弾ベストを着てヘルメットを被り、警戒棒を持ち歩く。
「仕事は5年目になりますね。自分の運転でお客様のところに行って、現金をお客様に渡す。緊張感がある仕事だし、達成感があって楽しいです。秋田は雪が降るから運転は大変。ホワイトアウト状態になって、全く前が見えないなか逆走してくる車を避けながら進んで行ったこともありましたね」
「普通の人」が一番嬉しい
「めちゃめちゃ楽しい」。その言葉から心底の喜びが伝わってきた。今も時々、仕事先などで「巨人の辻内」と気づかれることがあるという。その時は「違います」と答えるのだと言って笑った。
「あ、違います、って。仕事中にあまり喋っていると長くなりますからね。職場の仲間は、最初に入ってきた時から元プロ野球選手だから、という特別扱いは一度もなかったです。ミスがあればきちんと注意したり怒ったりしてくれる。うん、普通の人になれたことが一番嬉しいかもしれないです。家族とも以前より一緒にいる時間が多い。ここで仕事をして、家に帰ってご飯を食べて寝て、また仕事する。そういう規則正しい流れが自分にはあっているし、凄く嬉しいんですよ」
いま36歳。妻と子供二人との、堅実で穏やかな暮らしがそこにはある。