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大谷翔平「176号」が松井秀喜の苦しみと重なった…「ゴロキング」と揶揄されたメジャー1年目に打ち明けた「本塁打を打てなかった本当の理由」
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph byJIJI PRESS
posted2024/04/25 17:06
21日にメジャー通算176本塁打を放った大谷翔平。松井秀喜の記録を抜き、日本選手単独最多となった
「なぜホームランを打てない?」筆者に松井は答えた
5月のニューヨークだったと記憶している。松井に聞いた。
「なんで打てないの? なんでゴロアウトばかりなの?」
失礼だとは思いつつも、本当のことを探るのは記者の基本だ。松井への敬意を欠かさぬよう、ふたりだけになれる時間を狙って聞いた。
「見ての通り。これが今の自分の実力だよ」
それでもしつこく聞いた。
「なんでホームランを打てないの?」
松井は答えてくれた。
「日本でもアメリカでも俺のアプローチは一緒。何も変わってないよ。でも、結果は大きく違っちゃう(笑)。例えば走者が二塁にいたとすれば、最低でも三塁へ進めたいと思い打席には入っている。それは日本もアメリカも同じなんだよ。そこで本塁打になっちゃうのが日本、二ゴロになっちゃうのがメジャー。だから、これが今の俺の実力」
手厳しいファン、記者からの評価は変わっていった
外角への変化球に対しバットヘッドが返り、一塁へ下を向きながら悔しそうに走る松井の姿が頭を駆け巡る中で心に残ったのは技術でなく打席内での考え方、アプローチだった。
野球には2死走者なしなど、本塁打を狙って打席に入っていい場面が多々ある。派手な結果に左右され本塁打を打った、打たないに一喜一憂しがちだが、置かれた状況で『すべきこと』を実践するのが選手に求められる責務だ。“ランナーを進めようと思ったらホームランになっちゃった”。松井には大切なことを教えてもらったと感謝している。
6月以降、徐々にメジャー投手への適応を果たしていった松井はニューヨークの手厳しいファンや記者からの評価も高めていった。そこには進塁打、犠飛など『プロダクティブ・アウト』と呼ばれるチーム打撃を確実に実践する松井の姿があったが、その仕事の持つ意味をファンや記者が理解していたからだ。その中で28歳からメジャーでプレーし、「175」という金字塔を打ち立てたことに敬意を払いたい。