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甲子園の風BACK NUMBER
「やっぱり僕は甲子園に取りつかれている」智弁和歌山高で甲子園に5度出場…30歳の新米監督が“地元の選手たち”で夢舞台を目指すワケ
text by
沢井史Fumi Sawai
photograph byFumi Sawai
posted2024/04/18 11:01
今年1月から鹿児島城西高の監督に就任した道端俊輔。智弁和歌山高時代は名将・高嶋仁監督の下で5度の甲子園出場を果たした
「やっぱり僕は甲子園に取りつかれている」
高校野球監督として、ようやくスタートラインに立った。
社会人時代まで積み上げた経験から見ても、道端の今後の人生には多くの選択肢があったはずだ。偉大な恩師の存在があったとはいえ、なぜ高校野球の指導者を選んだのか。
「やっぱり僕は甲子園に取りつかれていると思うんです。小学校から社会人まで全てで全国大会に出場させてもらって、東京六大学の早慶戦や神宮大会での優勝決定戦も経験しました。ただ、神宮球場や都市対抗でスタンドが満員になった試合を肌で感じても、やっぱり甲子園にはかなわないんです。
早慶戦は、ひとつの重要な試合でもどこかお祭りのような感じがしてしまって。感覚的に夢の中でプレーしているのは甲子園なんです。甲子園はプレーをするのは一瞬で終わって、後で映像を見てこんなことがあったなって思い出してしまう。それくらい夢のようで……。他の大会ではなかなか味わえない感覚です」
甲子園で忘れられなかった場面は、試合ではなく開会式のリハーサルだった。1年生の夏。入場行進を待つライト側の外野スタンドとアルプススタンドの間から球場内の光景が目に飛び込んできたその瞬間だ。リハーサルは無観客だが、大きなスタンドがいきなり目の前にそびえ立った光景に「鳥肌が立ったんです」と道端は興奮気味に話す。
「春と夏、甲子園は景色が全然違うんです。5回、甲子園を経験して、最後までその違いに慣れなかったんですよ。甲子園のそういう景色を1人でも多くの学生に見てもらいたいって思うようになりました」
道端の“野望”はそれ以上でもそれ以下でもないのだという。常勝軍団になること、さらにプロ野球界へ教え子を……という思いは「現時点ではあまり頭にない」そうだ。
「プロ野球選手を輩出したいのではなくて、1人でも多くの球児を甲子園という舞台に立たせてあげることが僕の役目だと思っています。一線級の選手を集めて勝とうというのは、他の監督もできること。プロになれるのかは別として、この辺りの子たちを引き上げて、できれば九州……というより鹿児島の選手たちだけで戦いたいんです。色んな人に『それは……』って言われるんですけれど、高嶋(仁)先生のように地元に愛されるチームを作りたいんです」