- #1
- #2
サムライブルーの原材料BACK NUMBER
「これは初めて明かすのですが…」ロシアW杯日本代表・昌子源が語る“ロストフの悲劇” で刺さった先輩GKの言葉「まだ終わってない。まだ10秒ある」
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byShigeki Yamamoto
posted2024/04/02 17:04
FC町田ゼルビアの主将を務める昌子源(31歳)。自身が影響を受けたリーダーについて語った
「そこでハセさんが“謝られる覚えはないです。勝ち上がるためなら何でもやります”って言ったんです。あのときはシビれましたよ(笑)。チームがそこでまた一つまとまった瞬間にもなりましたから」
2大会ぶりにグループリーグを突破し、ラウンド16では優勝候補ベルギー代表を相手に2点リードしながらもあまりに衝撃的な負けは「ロストフの悲劇」として知られている。ベスト16の壁は超えられなかったものの、一つになって戦えたからもう一歩のところまで迫ることができた。大会前に監督交代があり、ゴタゴタを乗り越えることができたのは長谷部の存在も大きかった。迷いなき、躊躇なき言動で束ねたリーダーシップは昌子の心に突き刺さった。
昌子を支える“まだ10秒ある精神”
そしてもう一人。こういう選手になりたいって心から思わせたくれた先輩がいる。
「このエピソードは初めて明かすのですが」と前置きして、心に大切に閉まっていたものを取り出してくれた。
あのベルギー戦、後半アディショナルタイムにコーナーキックからカウンターを受け、ナセル・シャドリに勝負を決める3点目を奪われてしまう。昌子はピッチに崩れ落ち、あまりのショックに体を動かすことができなかった。そのときに足早に近づいてきたのが、GKの川島永嗣であった。
「永嗣さん、僕のことを起こすんですよ。無理やり手を引っ張って。そのときに言ってくれた言葉が忘れられなくて。『源、立て、あきらめんな。まだ終わってない。まだ10秒ある』って。終了間際のゴールで時間なんてほとんどないのに、あきらめんなって言ってくれたんです。そのときは気落ちしたままで『そうっすね』みたいに返したって記憶しているんですけど、後になって振り返ったら凄い言葉やったなって感じたんです」
昌子は立った。傷つきながらもファイティングポーズを取り直して、非情のホイッスルを聞き遂げた。ワールドカップ以降、うまくいかないことがあろうとも、困難が直面しようとも“まだ10秒ある精神”は彼を支えている。
「ミツさん、ハセさん、エイジさん。もちろんほかの方もいるんですけど、この3人は特に自分のなかでこういうふうになりたいなって思わせてくれた人たち。町田ではキャリアを多く積んでいるほうなので、みなさんのいいところを取ってハイブリッドというわけじゃないけど、若い選手たちには自分なりに伝えていきたいなって思います」
リーダーとしての使命に向き合っていく日々。受け継いできたものを次の世代へという意識も強い。それが選手たちのマインドを強くし、チーム自体、リーグ自体、そしてもっと広い観点に立てば日本サッカー全体の成長にもつながっていくはずである。
<前編から続く>