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岡田彰布「俺が怒ったんよ」“屈辱の歴史的V逸”を阪神・オリックス監督でどう生かしたか「余計な感情はいらない」「評価はしない。それだけよ」
posted2024/03/14 11:01
text by
岡田彰布Akinobu Okada
photograph by
Tamon Matsuzono/Nanae Suzuki
雪は白い。白い雪のように、チームに白星が降り続いた。誰にも止められない。しんしんと降り続く雪は、誰の力も借りずに積もる。あっという間に白星が積み重なるのと似ている。いつの間にか重なったチームの白星が、最後には独走態勢を生み出していた。「簡単に優勝した」とおれが感じたのは、まさに降り積もった雪のように、白星が重なったからだ。
アレの元祖は吉田監督
今回の優勝への道は、すべてがそんな調子やった。流行語大賞にまでなった「アレ」も、別におれが受けを狙ってひねり出した言葉でもない。もともと「優勝」と口にせんかったのは、おれの経験では85年の阪神・吉田義男監督やったと思う。
「優勝」と言わずに「アレ」と言うのは、おれがオリックスの監督時代に、交流戦で優勝を意識した選手が硬くならないように使い始めた、というもっともらしい説がある。
前回の阪神監督のときに、交流戦であるコーチが勝手に選手を集めて「ここまで来たら優勝を狙おう」とか言い出した。それでおれが怒ったんよ。
「コーチが勝手に優勝とか口にするな。優勝いうんはそんな簡単なもんと違うやろ」
と。それを知っている記者がいたんやろな。
オリックスのときは担当記者がびびって「優勝」とはよう言わんかった。「ここまで来たら……」とだけ聞いてきた。だからおれがいつもの調子で「そら、アレよ」と答えた、そんな感じやで。
「優勝」と言わない元祖は吉田監督よ。吉田監督は「優勝」とは言わずに、とにかく「チーム一丸」「土台作り」「一蓮托生」「挑戦者」と簡単で、単純なフレーズを繰り返しとった。
優勝マジックが出てからは、誰とは言わんけどあるベテラン選手に「おっさんええ加減にせんかい。もうはっきりと優勝やと言うたらええやろ」と言われとった。
そういうところは吉田監督も頑固やからなあ。優勝スピーチでも、うちは挑戦者です、言うてたわ。
アレのきっかけは「歴史的V逸の屈辱」
あえて自分の中でなぜ優勝がアレになったのかを問うのなら、オリックスのときではなく阪神監督最後の2008年やろうなあ。