プロ野球PRESSBACK NUMBER
岡田彰布「俺が怒ったんよ」“屈辱の歴史的V逸”を阪神・オリックス監督でどう生かしたか「余計な感情はいらない」「評価はしない。それだけよ」
text by
岡田彰布Akinobu Okada
photograph byTamon Matsuzono/Nanae Suzuki
posted2024/03/14 11:01
阪神タイガースを日本一に導いた岡田彰布監督。本稿ではオリックス・バファローズ時代の知られざるエピソードも明かしてくれている
最大13ゲーム差で独走態勢やったのに、最後は巨人に逆転された。
いろんな理由がある。おれの中で、なんでやろ、と思い返せば「優勝」を一番意識していたのは、監督のおれだったのかもしれない。「優勝できない」「逆転される」という危機感を、極端に持ちすぎた。
極端な危機管理は、逆に危機を招く危険性がある。サヨナラ勝ちをしても「こんな勝ち方はあかん」とおれの頭の中は冷め切っていた。
「優勝」を誰よりも意識したことで、極端な戦いぶりになった。試合相手はまだしも審判やマスコミ、フロント、自分の周りすべての緩い空気に腹が立った。「こんなんじゃ優勝できんぞ」とピリピリして周囲と対立した。
「優勝」じゃない。「アレ」やん。2023年はそうすることで、みんなが深呼吸した。余裕を持って冷静に試合した。おれは「普通にやるだけやんか」という言葉を繰り返した。
自分では意識したつもりはないが、いずれも前回の反省を含めて、自分に言い聞かせていたのかもしれん。2008年の歴史的V逸の屈辱。普通にやれなかった悔いは残った。
「アレ」は嫁さんの発案
流行語大賞では「アレ(A.R.E.)」と表現してたなあ。スピーチでは、自分なりの解釈も加えた。「これ」なら簡単に手が届く。「あちら」だと遠すぎて目標にならない。「アレ」だともう少しで手が届く。達成可能で明確な目標になる。
チーム全体で「アレ」を目指すことにした。球団も正式なチームスローガンにするために「A.R.E.」に英語のフレーズを加えた。
ところが嫁さんに言うたら「ちょっとニュアンスが……」と首を傾げる。嫁さんは父親が商社マンで中学生のときから6年間、カナダで生活しとった。本場の英語が身に付いとるから、それはいろいろ助かる。
A(Aim・目標)R(Respect・敬い)E(Empower・力を付ける)と、嫁さんのアイデアを加えて球団のキャッチフレーズを完成させた。そういえば2024年のキャッチフレーズは「A.R.E. GOES ON」に決まったけど、これも最初は微妙に表現が違っていた。
最初はGOING ONやったかな。嫁さんが英語としてはちょっとおかしいよって言うんで、GOES ONに直した。
決めるのはフロント、采配に余計な感情は…
嫁さんも大したもんやと認めるけど、それはそれ。最終的に球団として決定するのは、そらフロントの責任よ。グラウンド以外のことは、おれが進言しても決めるのはフロント。責任を持たせることでフロントは動く。