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「美誠ちゃんがいたから」チームメイトが語った“伊藤美誠への感謝”…「私はリザーブに向かない」発言後、世界卓球で見せた“支える姿”の意味
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2024/02/27 11:00
決勝の中国戦を終え、チームメイトの平野美宇とハグする伊藤美誠
卓球の大前提は「個人競技」
それが正解かは別として、そもそも卓球は個人競技だ。まずは自分のためにプレーする。むろん、支えてくれる人のために、という思いも持ちつつプレーしている選手も多い。伊藤もそうだ。何度も感謝を言葉にしている。でも根本は自分のためだ。そして自分がどういう競技人生を歩み、どんな選手になりたいかを決めることができる。だからリザーブとして行く行かないも伊藤の選択に委ねられるべきものだ。
そして代表争いにあっては、お互いはライバル関係になる。近年のいくつかのオリンピックの前も、代表が決まるまで口をきかなかったことなど珍しくはない(それは卓球に限らない)。それくらい強固な個をもって、覚悟をもって目標へとエネルギーを注いでいる。これはよく知られた話だが、1998年の長野五輪スキー・ジャンプ団体戦で日本が劇的な金メダルを獲得したときのエピソードがある。日本代表は8名、団体戦メンバーは4名。このとき外された一人が葛西紀明だった。
「団体戦の当日、1本目のときはホテルにいました。自分が出ないのに応援できないなって気持ちが強かったです。2本目になって会場に見に行きました。でも、落ちろって言いながら見ていましたね(笑)」
金メダルを獲得したとき、葛西は「悔しくて涙が出たと思います」と振り返っている。でもそれをチームのメンバーも誰も、責めることはない。そういうものだからだ。
ベンチの振る舞いに見えた、伊藤美誠のプライド
世界選手権に話は戻る。
伊藤は大会を笑顔で振り返った。
「私が出場している中でも、過去最高に中国を苦しめたんじゃないかと思います。私自身も試合に出ている以上に楽しかったです」
伊藤にもきっと大一番に出られない悔しさはあったのではないか。
でもそれを見せることなく、戦っている選手たちを懸命に励まし、アドバイスを続けた。監督としてではない。卓球界のトップアスリートとしての誇りとともに、チームメイトを支えた。
そこに伊藤の芯があった。そしてこれからが楽しみになる姿でもあった。