炎の一筆入魂BACK NUMBER
実は球数が増えてなかった、賛否両論の「カープの投げ込み復活」…運動理論全盛のいま、それでも投手が投げ込む効果と方法論
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byKYODO
posted2024/02/26 11:00
32歳になってなお、投げ込みを重視する九里
近年はキャンプ中の投げ込みは少なくなっているが、ブルペンでの球数もよく議論に上がる話題だ。
今年の広島キャンプでは「投げ込みが復活した」と一部で騒がれたが、実はキャンプ中の投手のブルペン投球1回の平均球数は昨年と比べてもほぼ変わらない。
それでも「投げ込み復活」と見られるようになったのは、キャンプ3日目の出来事が印象的だったからだろう。ともに19歳の斉藤優汰と日髙暖己の2投手が、黒田球団アドバイザーに加え、評論家として訪れた松坂大輔氏から熱血指導を受けた。その中で伝えられたひとつが「投げ込みの重要性」だったのだ。
「松坂さんは『投げ込みをしていた。投げないと体の使い方を覚えられない』とおっしゃってました。疲れた状態でどれぐらい投げられるか知っておきたい部分もありますし、疲れた中でちゃんと威力あるボールを投げられるようにしていきたいと思います」
そう語っていた斉藤は、第2クール初日の2月6日にすぐさま投げ込みを実行した。キャンプ、練習では自身最多となる140球の投げ込み。この一連の流れが「投げ込み復活」のイメージを強くした。
ただ、その内容を精査すれば、イメージとは異なる真実が見える。第5クールまでに100球以上の投げ込みを行った投手は、キャンプ初日に100球を投げた2年目の河野圭や斉藤を含め4投手しかいない。投手全体の球数は昨年とほぼ同じ。結果、広島キャンプで「投げ込みが復活した」という事実はなかった。
効果的な投げ込み
だが、投げ込みの必要性を感じている投手は多い。
2021年の春季キャンプで347球を投げ込んだこともある九里亜蓮は、32歳となった今年も120球を投げ込んだ。
「僕は投げ込みは大切だと思う。疲れた中で体をうまく使って球を生かす練習になる。あるいは、自分の感覚を掴むためにも投げ込んでいいと思う」
投げ込みが無尽蔵のスタミナの源となり、昨季セ・リーグ最多投球回を記録した。今年は歩幅を狭めたフォームづくりのプロセスと位置づける。