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結婚前、妻の父から「寺を継いでもらえないか?」元Jリーガー僧侶・五藤晴貴が“午前3時起床”修行で得た悟り「座禅の時、サッカーを…」 

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間淳

間淳Jun Aida

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posted2024/02/25 06:02

結婚前、妻の父から「寺を継いでもらえないか?」元Jリーガー僧侶・五藤晴貴が“午前3時起床”修行で得た悟り「座禅の時、サッカーを…」<Number Web> photograph by Jun Aida

現在は静岡県の林入寺で副住職となった五藤晴貴さん

「修行体験はすごくきつかったですが、妻と一緒に居たいと思いました。僧侶になると伝えました」

 華やかなサッカー選手とは真逆に近い印象の世界。全てが初めての経験で不安は大きい。それでも、愛する人と生涯をともにする生き方に一番の価値を見出した。自身の父親に「僧侶になる」と伝えると、「お前が選ぶ道は応援するけど、できるのか? 決意したなら、しっかりと極めろ。サッカーも頑張ったんだから」と背中を押された。

午前3時起床、座禅…体重は1カ月で10キロ落ちた

 結婚前、夏美さんは東京で働いていて、富山や愛知で暮らす五藤さんとは遠距離で交際していた。忙しい中でも夏美さんはアスリートフードマイスターの資格を取った。月に何度か五藤さんの元へ来て料理をつくり、会えない時は栄養バランスを考えた惣菜を送った。五藤さんは「サッカー選手の時は支えてもらったので、引退してからは自分が支える番という気持ちが強かったです」と話す。

 第2の人生は僧侶として歩む――。気持ちは固まった。だが、その前に修行が待っている。五藤さんは横浜市の寺に向かった。修行期間は2年2カ月。当時を回想する。

「今となれば楽しかった、充実していたと言えますが、逃げ出したくなるほどきつかったです」

 修行は最初の1週間が特に過酷だった。起床は午前3時。そこから、就寝する午後9時まで壁に向かって座禅を組む。座禅を解くのは、食事とトイレのみ。食事は精進料理のため、動物性の食材は一切使われていない。朝食はおかゆ、ごま塩、たくわん。昼食と夕食は白米とみそ汁に野菜が一品だけだった。現役時代、練習や試合で体重が落ちないように食事の量が人一倍だった五藤さんにとって、空腹は想像以上につらかった。修行を始めて1カ月で、体重は10キロも落ちたという。

唯一の息抜きは“筋肉労働”の作務だった

 孤独との戦いもある。座禅を組んでいる時も食事をしている時も、誰とも話ができない。許されている言葉は「はい」と「いいえ」の2語だけだった。この1週間を乗り越えると、修行僧と認められる。

 生活の制限も厳しい。携帯電話やテレビ、新聞やラジオは禁止。修行から100日経過すると文通が許可されるが、返事は手元に届かない。ハガキを1枚渡されて決まった文章を書き、最後の1行にタオルやせっけんなど必要としている物を記して送るだけ。修行から半年経つと一般的な手紙のやり取りが認められるが、外出自体が禁じられているため郵便局に行けず、結果的に手紙を出すことはできない。

 五藤さんが唯一の息抜きに挙げたのは、作務と呼ばれる筋肉労働である。

【次ページ】 座禅中に“悟った”サッカーで得たものの大きさ

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