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結婚前、妻の父から「寺を継いでもらえないか?」元Jリーガー僧侶・五藤晴貴が“午前3時起床”修行で得た悟り「座禅の時、サッカーを…」
posted2024/02/25 06:02
text by
間淳Jun Aida
photograph by
Jun Aida
ユニフォームは袈裟に変わり、髪形は流行りのスタイルからきれいに剃った文字通りの“坊主頭”となった。ジュビロ磐田ユースで10番を背負い、当時J2だったカターレ富山などでプレーした五藤(旧姓:梅村)晴貴さんは今、静岡県島田市にある林入寺で副住職を務めている。
そのきっかけとなったのは、後に妻となる夏美さんから「実家がお寺」だと伝えられたことだった。それを告げられた当初、五藤さんは驚く一方で他の親類が後継になるものだと思っていたそうだ。
「もしよかったら、寺を継いでもらえないか?」
お寺を訪れて3度目のことだった。夏美さんの父で住職の秀典さんからこう打診された。
「もしよかったら、寺を継いでもらえないか?」
まだ現役中だった五藤さんは「サッカーを続けます」と返答。引退後の選択肢として僧侶のイメージも沸かなかった。
2018年のオフ、FCマルヤス岡崎に所属していた五藤さんは23歳で引退を決めた。次の仕事に選んだのは、FCマルヤスの職員だった。企業を回ってスポンサーを集めたり、イベントを企画したり、サッカー経験を生かした指導者ではなくクラブ運営の役割を担った。
「高卒でプロになったので、社会を知る必要があると感じました。名刺の渡し方やパソコンの使い方など、社会人としての基本を学びました」
クラブ職員の仕事に不満はなかった。ただ、1つの迷いがあった。現役引退以上に大きな岐路に立っていた。
「結婚を考える中で、結婚するならお寺を継ぐ。継がないなら別れるいう選択肢でした」
修行体験はすごくきつかったが、妻と一緒にいたい
未知の世界に飛び込む不安と、愛する人とずっと一緒に居たい希望。交錯する思いを胸に、五藤さんは一歩前に踏み出した。誰にも告げず、福井県の寺へ4泊5日の修行体験を申し込んだ。
一般向けの修行体験だったため、本来の修行のような厳しさはない。それでも、修行体験を終えた五藤さんは「僧侶になるのは絶対に無理」と痛感した。僧侶になるのか、夏美さんと別れるのか。迷いを断ち切れないまま、帰宅した。そして、夏美さんの顔を見て決心した。