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結婚前、妻の父から「寺を継いでもらえないか?」元Jリーガー僧侶・五藤晴貴が“午前3時起床”修行で得た悟り「座禅の時、サッカーを…」
text by
間淳Jun Aida
photograph byJun Aida
posted2024/02/25 06:02
現在は静岡県の林入寺で副住職となった五藤晴貴さん
200メートルほどの長い廊下を水拭きする時、「はい!」と大きな声を出しながら体を動かせる。
「体調を崩したり、精神的にまいったりした人は多かったです」
朝起きると、同じ部屋で過ごす修行僧の布団が空っぽで、逃げ出していたケースは珍しくなかったという。
座禅中に“悟った”サッカーで得たものの大きさ
五藤さんには個別の苦労もあった。修行に来る人の9割は寺の息子。専門用語が飛び交う環境が当たり前で、お経も覚えている。異業種から転身した五藤さんは大きく出遅れていた。だが、他の修行僧にはない強みを持っていた。サッカーで培った体力と忍耐力だ。
「根性では負けない自信がありました。最初の1週間の修行では座禅で足の感覚がなくなりましたし、空腹と睡魔にも勝たなければいけません。時の流れが遅くて心が折れそうになりました。でも、中学や高校の時のつらかった走り込みを乗り越えたからいけるという気持ちになれました。座禅をしながら、サッカーをやっていて良かったと感じました」
過酷さの種類は異なっても、困難を乗り越える精神力は共通していた。中学と高校時代、五藤さんはジュビロ磐田の下部組織に所属していた。クラブチームはテクニックを磨き、練習自体はきつくないと思われがちだが、実際は違うという。
「ジュビロのジュニアユースはフィジカルを強化するメニューが多くて、走り込みもかなりの量でした。高校時代は寮生活だったので、上下関係についても経験しています」
そして、何よりも強力なパワーとなったのが夏美さんの存在だった。結婚してから修行に向かった五藤さんは「妻が待っているので、しっかりと修行を終えないといけないと思っていました。待ってくれている人がいるのは大きかったですね」と振り返る。
修行では、お経や法要といった基本はもちろん、「僧侶は人の死と向き合う特別な仕事」という最も大切な心を学んだ。2年2カ月の修行を終え、五藤さんは僧侶のスタート地点に立った。
批判されると「もっと頑張ろう」と
林入寺の副住職となって、間もなく1年が経つ。
僧侶としては「まだ半人前」と自己評価するが、五藤さんだからこそできる活動も始めている。