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日大アメフト《悪質タックル問題》で“消えた天才QB”が「廃部」に思うこと…「卒業した後の方が人生は長い」「“今”にとらわれず俯瞰的に」
text by
北川直樹Naoki Kitagawa
photograph byNaoki Kitagawa
posted2024/02/18 11:06
「悪質タックル問題」で揺れた当時の日大アメフト部でエースQBを務めた林大希は、現在関東2部リーグの東海大でコーチを務める
一例を挙げれば「いま上手くいっていない人のほうが、次にすんなり移りやすい」ということだ。物事が上手くいっている時は、それだけが正解に思えて、そのプロセスに縛られやすくなってしまう。反対に上手くいっていない場合は、気持ちも切り替えやすく、別の最適解に向かいやすい。
「監督や指導方針がコロコロ変わる中で、前は上手くいっていた選手が急に目立たなくなったり、燻っていた選手が生き生きと活躍するようになったり。100人部員がいると、ほんとうに色々な変化がありました。社会に出てからも、節目、節目で同じように感じることは多いですね」
いまの日大フェニックスもその例に漏れない。
打ち込んでいた気持ちが強ければ強いほど、今回の廃部騒動のショックも大きかっただろう。だが、だからこそ現状を俯瞰して見てほしいと林は言う。一歩引いて状況を見れば、そこには多くの道が存在する。
林自身もフットボールで結果を出すことに熱くなりすぎたことや、結果そのものに縛られてしまっていると自戒することも多いという。
嵐のような4年間を振り返って感じることは…
振り返ると、一大学生が受け止めるには、色々なことがありすぎた。
当時はそのひとつひとつが、「しんどくてキツかった」という。ただ、その一方で、今はどこか空虚さを感じることも多いという。
「あの時は、本当に毎日上がったり、下がったり。もちろん当時は恨みとか、負の感情もいっぱいありましたけど……今思うと、ありがたい経験ができたと思うことが多いです」
まだ25歳になったばかりだ。突然、それまで打ち込んできたものが目の前から無くなった出来事への恨み節があってもおかしくないと思っていた。だが目の前の若者は、その経験も咀嚼し、すでに達観していた。それは良いことである一方で、同時に不遇であるようにも感じられた。
ただ、ひとつだけ間違いないことがある。悩み、もがきながら歩んできた。その全てに意味があって、あの4年間があるからこそ、今の林があるということだ。
あの赤色のショルダーとヘルメットを身につけることは、もうないのだろう。細身のスーツ姿に身を包んだかつての“天才QB”は、取材を終えると雑踏へと消えていった。
《インタビュー第1回、第2回も公開中です》