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選手から「あんたに挨拶する筋合いなんてない」と言われ…福島・学法石川“33年ぶりセンバツ出場ウラ話”甲子園準優勝監督が伝えた「勝つ覚悟」 

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田口元義

田口元義Genki Taguchi

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posted2024/02/02 06:01

選手から「あんたに挨拶する筋合いなんてない」と言われ…福島・学法石川“33年ぶりセンバツ出場ウラ話”甲子園準優勝監督が伝えた「勝つ覚悟」<Number Web> photograph by Genki Taguchi

33年ぶりのセンバツ出場を決めた福島・学法石川高の野球部メンバー。指揮を執るのはかつて仙台育英高で甲子園準優勝の実績を持つ佐々木順一郎監督

「どうせ聖光学院が出るんでしょ」

 県内のチームが及び腰になるのも無理はなかった。

 そんななか、佐々木は監督就任当初から一貫して「聖光学院超え」を公言した。

「あれはアドバルーンです」

 佐々木はあえて大風呂敷を広げたのである。

「聖光さんの牙城を何とか崩したいということで、ちょっとくらい嫌われてもいいからそういうことをぶち上げていこうかな、と。『佐々木が吠えているけど、好き勝手やらせちゃだめだよ』と福島のみなさんに立ち上がってもらいたいとか、そこまで大それた想いはなかったですけど、少しは鼓舞していきたいという意味で1年くらい言い続けました」

 勝てていないのに、本当に勝てるのかよ――口に出さずともそんな雰囲気が漂っていたチームの眼の色が変わり始めたのは、19年秋の県大会だ。佐々木が学法石川の監督となって初対戦となった聖光学院との試合で10-2の7回コールド勝ち。新監督は早くも有言実行を果たしたのである。

「どうせ」ではなく「やれる」へ…指揮官が伝えたもの

 佐々木が訴え、注入したかったのは勝者のメンタリティだ。

「どうせ」という枕詞を排除し、「やれる」という自信を植え付ける。それこそが学法石川再建への、大きな第一歩だったわけである。

 就任間もない時期に佐々木が繰り返していた言葉を思い出す。

「育英とは土台が違いますから。覚悟や楽しさを今後は学んでいってほしいですね。敗けるにしても、今の敗けより次の敗けのほうが意味合いは違う。そうやって成長していければいいのかなと思っています」

 実績が物語るように、佐々木は学法石川の監督となってからも敗け続けた。甲子園の出場はなく、聖光学院との直接対決でも初勝利以降は連敗しており、現時点で対戦成績は1勝7敗と大きく水をあけられている。

 敗戦の歴史から、佐々木は学ぶ。

 学法石川に足りないもの。それは覚悟だ。

「『福島県で勝つ覚悟があるのは1校だけだよね』と選手には口癖のように言っているんです。それは聖光学院です。学法石川もそうでしたけど、福島のチームはどこか、『聖光に敗けたらしょうがない』という雰囲気をものすごく感じるんです。夏は毎年のように勝ち続けているチームに勝つ覚悟を持つというのは、非常に難しいことなんです」

【次ページ】 指揮官として「6年半ぶり」の聖地へ

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