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「大阪桐蔭に“0対40”で大恥をかく…」21世紀枠・別海のウラ話「町長に直訴…牛の品評会場が練習場に」センバツ決定の瞬間に完全密着 

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柳川悠二

柳川悠二Yuji Yanagawa

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posted2024/01/28 06:00

「大阪桐蔭に“0対40”で大恥をかく…」21世紀枠・別海のウラ話「町長に直訴…牛の品評会場が練習場に」センバツ決定の瞬間に完全密着<Number Web> photograph by Yuji Yanagawa

センバツ21世紀枠に選ばれた別海(北海道)。発表当日を記者が完全密着した

猛牛打線ならぬ「乳牛打線」

 中道主将は昨秋の快進撃の立役者だ。全道大会初戦の苫小牧中央戦では1点を追う9回裏に逆転サヨナラ2ランを放ち(高校生として札幌ドームの本塁打第1号)、準々決勝の知内戦ではタイブレークにもつれた10回に満塁から走者一掃の2塁打を放った。

「(初戦の)ホームランは人生最高の当たりでした。普段、漁師である父の仕事の手伝いで、港での荷揚げをやったりしている。そういうのが自分のパワーの源にはなっているかなと思います。ただ、自分がホームランを打ったことよりも、みんながつないでくれて、勝ち上がることができたことが嬉しい。僕が打って勝ったというのは、ただの結果です」

 父・大輔さんは秋味(秋に北海道で捕れる鮭)やホタテの漁師で、中道主将は将来、父のあとを継ぐことを公言してはばからないが、このチームを支えるのは酪農家(削蹄師を含む)に育った7人の部員だ。往年の近鉄バファローズの猛牛打線ならぬ乳牛打線で、別海高校は甲子園切符を手にした。

発表中「なぜ監督は表に出ず?」

 ナインが別海の牛乳で乾杯をしていた頃、島影監督はひっそりと体育館にやってきた。スーツ姿のためか、報道陣もすぐには監督だと気付かない。筆者は近づき、なぜここまで身を隠していたのかと訊ねた。

「決定の瞬間に生徒と一緒にいたら泣いてしまいますし、冷静になって取材を受けられませんから(笑)。試合では常に全力疾走して、負けていても最後まで諦めず、泥臭く、粘って粘って勝機を見つけていく。これぞ高校野球という野球を、うちはやっていると思います。強い弱いに関係なく、とにかく応援してもらえるチームになろうと普段の生活、練習から心がけてきた。それを評価していただいたと思っています」

監督は前任校で解任、別海の赴任時は「部員4人」

 実は事前に、監督にはインタビューを行っていた。釧路にある私立・武修館高校の監督時代に、島影監督は二度、21世紀枠の候補校(2008年、2010年)となり、いずれも落選を経験していた。その後、2013年8月に突如として解任を告げられる。その理由は「君は人気がなく、選手が集まらないから」。

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