甲子園の風BACK NUMBER
「大阪桐蔭に“0対40”で大恥をかく…」21世紀枠・別海のウラ話「町長に直訴…牛の品評会場が練習場に」センバツ決定の瞬間に完全密着
posted2024/01/28 06:00
text by
柳川悠二Yuji Yanagawa
photograph by
Yuji Yanagawa
センバツ出場校が決まる1月26日、北海道野付郡別海町に凍てつくような寒さはなかった。数日前の豪風雪によって膝の高さまで雪が積もり、空港から別海までの道路は地吹雪が舞っていたものの、1月の平均気温が氷点下7度という極寒・別海を覚悟していた身には拍子抜けしてしまうぐらいの“温かさ”だった。
町民(約1万4200人)のおよそ8倍となる乳牛11万頭が暮らす酪農の町に歓喜が訪れる——その予兆のような気がしてならなかった。
センバツ発表前「喜び方をレクチャーされ…」
出場校発表の15分前となる午後3時15分に、授業を終えた道立別海高校のナインが体育館に集まってくる。わずか16人の選手はピンストライプのユニフォーム姿、マネジャーの3人がジャージ姿だ。選考委員会の様子を映し出す大型スクリーンを前に、計19人の部員は横一列に並んで座った。島影隆啓監督(41歳)の姿はない。
そして、あるカメラマンが、代表校に決まった時の喜び方をいちいち高校生にレクチャーし、その瞬間に備えていた。高校野球を長く取材していれば、落選する学校に立ち合うこともある。常連校ならいざ知らず、21世紀枠候補校が、まして選出が濃厚とされていた学校が選に漏れたら、会場はまさしくお通夜ムードで、監督や選手にはかける言葉も見つからなくなってしまう。そうした事態を想定していないメディアは少し無責任にも思えた。
いよいよ発表の時間となる。監督の姿はやはりない。寶馨(たから・かおる)日本高等学校野球連盟会長が、最初に今年の大会から2校となった21世紀枠の代表校を読み上げてゆく。
「9校から2校を選ぶのは大変難しかったわけですが、結果として21世紀枠は、北海道の……」
会長が校名を口にするよりも早く、攻守の要である捕手の中道航太郎主将が真っ先に立ち上がって右手人差し指を天に突き上げた。続いて全部員が輪になり、キャプテンのポーズを真似た。
昨秋の全道大会でベスト4に進出し、オホーツク海に面した道東に位置する別海高校は、春夏を通じた甲子園の歴史上、日本最東端から甲子園にやってくる代表校となった。