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酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
「プロは細かな部分、見てるんですよ!」熱弁にトライアウトL参加者の表情が…オリ阪神OB平野恵一44歳の野球論が深イイ
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKou Hiroo
posted2023/12/26 17:01
ジャパンウィンターリーグ視察中、インタビューに応じてくれた平野恵一さん
〈山形のお寿司屋さん、のたとえ話〉
「例えば山形県ですごく人気のあるお寿司屋さんがある。銀座の一等地で1人5~10万円もするお寿司屋さんなら、大間マグロの一級品を使うなど、おいしくて当たり前ですし、お客さんがたくさん来るから儲かるでしょう。
でも、山形県のお寿司屋さんは1人2000円で、朝から行列ができる。どこ産のマグロを使っているなんて公言していないのに、おいしいと評判が立っている。いったい何が違うのかというと、仕込み。つまりお客さんに出すまでの準備が違うんです。
野球で言えば、僕はどちらかと言えば『山形県のお寿司屋さん』でした。身長は169cmしかない。ほとんど日本人の平均身長、メジャーなら190cmも珍しくない世界です。こんな小さい体では、素材だけでは勝てない。
では何で勝つか。それを自分で探して、何とか目立つようにアピールするんです。
俺は銀座の高級寿司屋じゃなくて、誰も知らない寿司屋だから
僕の場合、練習で二塁を守っていたら、ショートくらいの深さで守ってボールを貰って一塁送球して〈自分は肩がいいぞ〉と見せる。走塁でも一塁で絶対アウトだな、というところでも全力疾走すれば、セーフになることもある。試合が終わったら、一番ユニフォームが真っ黒だ、といったものを目指す。
バッティング練習ではホームランばかり狙っていました。自分がホームランを打てるのはポール際しかないのですが、わざとインローを投げてもらって〈俺はちっちゃいけど、小力はあるよ〉とアピールするんです。でも最後はレフト付近にコンコンと打って(平野氏は左打者だから流し打ちになる)、センターに低く強い打球を打つ。セーフティバントもできるよ、とアピールする。
俺は銀座の高級寿司屋じゃなくて、誰も知らないような山形の寿司屋です。でもお客さんが来て食べてくれたら〈めちゃくちゃうまいっすよ!〉ってアピールすることが大事なんです」
平野氏の話を聞くうちに、選手たちがだんだん前のめりになっていくのが分かる。このあと、平野氏はホワイトボードを使って走塁を中心とした技術、意識両面でのアドバイスを送る。
〈やらなきゃいけないことがある〉
「点差が離れた試合展開になった場合——僕も良く言われたんですが、スコアボードは“ただの数字”だと思うことも必要です。その時は自分のやりたいこと、やるべきことができた方が大事だ、と。
ゴロを打ってアウトだと思っても、野手が足を滑らせるかもしれない、と必死でファーストに行く。そういう部分でも頑張ることが、自分のモチベーションの1つだったかな、と思います。野球はベースを踏んでアウトになっておしまいではない。そこで力を抜いたら絶対に勝てない、と(ウィンターリーグの試合を通じて)少しわかってほしかったな、と思いますね」
走塁・盗塁で気になったこと
平野氏は走塁での具体例を、投手・守備側・走者側の各視点に立っていくつも挙げていた。