モーターサイクル・レース・ダイアリーズBACK NUMBER
速い理由は「巨大フライホイール」「独自のデスモドロミック」と…マルケス移籍で注目のドゥカティに速さをもたらすメカニズム
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2023/12/28 17:01
2023年はドゥカティのエース、バニャイアが2年連続でタイトルを獲得。ランキング上位3名ともドゥカティのライダーだった
デスモドロミックのメリットは、一般的なスプリングを使うバルブ開閉に比べて高回転域に強いことが挙げられる。しかしそれは市販車レベルでの話で、現代のレーシングマシンではもはやニューマチックが当たり前とされている。だが、ドゥカティの速さはそうした定説を覆しており、その謎を解明するためいくつかのメーカーがチャレンジしたが、どこもうまくいかず、メリットを見いだせないと聞いた。まさに、ドゥカティの伝統的な技術が輝く部分ではないだろうか。
マシンづくりをリードするドゥカティ
そして3つ目は、最近ホンダもトライしているマスダンパーである。シートカウルに隠されたこのシステムの狙いは、リアのトラクションを増加させること。ドゥカティがこれを投入したのは17年のマレーシアテスト。リアシートが特異な形となり、ずいぶんと話題になった。この形状は長らく謎の部分だったが、いまではそれが「マスダンパー」であることは周知の事実となっている。
マスダンパーは00年代半ばにルノーF1が開発したマシンの上下動を抑制するシステムで、現在のF1では使用禁止となっている。MotoGPでは禁止されていないがセットアップが難しく、豊富なデータが必要になるといわれている。ドゥカティ以外のメーカーでは搭載事例が少なく、搭載したとしても技術的にドゥカティに大きく遅れている。ホンダでは19年にマルケスが初テストを実施し、やはり多くのデータが必要ということでお蔵入りとなっていた。今年のバレンシアテストで再登場したが、特段のコメントはない。
空力面も含めれば、現在のマシン作りをドゥカティがリードしているのは間違いないが、それらはいずれもマシン外観を見てもわからない秘密の部分であり、謎でもある。そうしたドゥカティの速さにストップを掛けようと、24年から新しいコンセッションルール(優遇処置)が採用される。ホンダ、ヤマハ、アプリリア、KTMがその恩恵を受けることになるが、ドゥカティに追いつくことはできるのだろうか。まずは、24年2月のマレーシアテストに注目したい。