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「ホンダに比べて体力的に楽」マルク・マルケスがドゥカティ初テストで見せた王者復活の可能性と、日本のファンへの惜別の念
posted2023/12/14 11:01
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph by
Satoshi Endo
マルク・マルケスがホンダワークスを離れ、ドゥカティのサテライトチーム「グレッシーニ・レーシング」へ移籍することが決まり、その初テストがバレンシア・サーキットで11月28日に行われた。結果はトップタイムをマークしたアプリリアのマーベリック・ビニャーレスから0.171秒差の4番手で、ドゥカティ勢に限ればマルコ・ベゼッキから0.078秒差の2番手。マルケスならと期待した「いきなりのトップタイム」というサプライズは実現しなかったが、ほぼ予想通りの結果だった。
これまでマルケスは、いたれりつくせりのホンダワークスで走ってきた。走行を終えてピットに戻ってくれば、エンジン、電気、車体など多くのエンジニアとメカニックに囲まれたが、グレッシーニはホンダワークスとは比べるべくもなく、レースのときとほぼ同じ最小限のスタッフでテストが行われた。
用意されたマシンは1台。来季、マルケスが乗ることになる2023年型デスモセディチGP23で49ラップを周回した。マシンが1台しかないため、アタックらしいアタックは一度もなかったが、これが初走行とは思えないペースで、あっという間にタイムを縮めていく。その走りはグレッシーニのピット前に集まった多くの報道陣を驚かせるに十分な速さだった。
十分なマージンをとっても速い
その走りをコースで見ていると、コーナー進入時は絶対に転倒しないという安全マージンを取っての8割程度の走行だったように見えた。マルケスとしてはかなりゆるいスピードでコーナーに入っていくのだが、クリップでのバンク角は深く、その深いバンク角でマシンの向きを変えると、ドゥカティのパフォーマンスを生かし、矢のように加速していく。本気で走ったら、一体どんなタイムがでるのだろうと期待させるものだった。
この日は雲は多かったが終日のドライコンディション。グランプリは12月1日から1月31日までテスト禁止期間に入るため、プロトタイプのニューマシンを走らせるメーカー、そしてマシンを乗り換えるライダーたちにとっては重要な一日だった。ワークスマシンを走らせる5チームはプロトタイプのテストに集中していたこともあり、ラップタイムの比較は目安にしかならないが、マルケスのライディングは低迷したホンダ時代では考えられないほどスムースなものだった。