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速い理由は「巨大フライホイール」「独自のデスモドロミック」と…マルケス移籍で注目のドゥカティに速さをもたらすメカニズム
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2023/12/28 17:01
2023年はドゥカティのエース、バニャイアが2年連続でタイトルを獲得。ランキング上位3名ともドゥカティのライダーだった
そのひとつは、2021年のオーストリアGPでエネア・バスティアニーニが転倒し、カウルを破損しながら再スタートを切ったときに世界中が目撃した巨大なフライホイールである。
筆者はその2年前のマレーシアテストでダニーロ・ペトルッチが転倒してマシンが大きく破損したとき、巨大フライホイールの存在を知った。しかし、転倒場所に急行してきたドゥカティスタッフの慌てぶり、必死になって隠す姿を見たときに、「オレはいま大変なものを撮影してしまった」と感じ、武士の情け(?)でその写真の公開をストップし、バスティアニーニが秘密の存在を世界中に晒すまで公開しなかった。
巨大フライホイールがどんな働きをしているのかを、ライバルメーカーのエンジニアに写真を見せて、分析、推測してもらったことがある。返ってきた言葉は、「フライホイールを大きくすることで、低速域(コーナーの立ち上がり)でアクセルが開けやすくなり乗りやすくなる。この効果は1〜3速ぐらいまで続き、4〜6速ではフライホイールの大きな慣性が加速、最高速につながるのではないか」というものだった。
フライホイールの効果そのものはエンジニアなら誰もが知るところだが、ドゥカティのような巨大(適正と思われるものより重い)なものは、他のどのメーカーも採用していない。さらにいえば、これはV型4気筒では使えそうだが、直列4気筒のエンジンレイアウトでは難しい。
主流に背を向ける独自メカ
2つ目はドゥカティだけが採用する「デスモドロミック」と呼ばれるシステム。二輪ではドゥカティが50年代のレーシングマシンに採用し、同じ頃、F1ではメルセデスが採用した、バルブの強制開閉システムである。
現在のMotoGPマシンでは、バルブ開閉にスプリングの代わりに空気を使う「ニューマチックバルブシステム」が主流で、高回転域で有利なためF1でもスタンダードの技術となっている(開発したのはルノーF1)。こうした最先端の技術に対し、デスモドロミックでは吸排気バルブの開閉をスプリングでも空気でもなく、カムとロッカーアームで強制的に行っている。そのメリットはなんなのだろうかと、ライバルメーカーのエンジニアも注目している。