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高校野球「打高投低」は変わるのか?《来春から導入決定》“飛ばないバット”がもたらすもの…中学生の大会では「無得点チームが去年の倍に」
text by
高木遊Yu Takagi
photograph byYu Takagi
posted2023/12/19 06:05
今年8月のジャイアンツカップで優勝した世田谷西リトルシニアも強打のチームだが、大会で本塁打は出ず
また、大会全体(全31試合)でも大きな変化があった(データ提供:読売新聞社野球事業部)。
・総得点:320点(昨年)→165点(今年)
・三塁打:46本→24本、二塁打:78本→45本
・大会総投球数:7038球→6407球
・1試合(7イニング制)における1チームの平均投球数:122球→106球
・1試合(7イニング制)の平均時間122分→106分
大会通して2桁得点を挙げたチームはなく、4回以降10点差で成立するコールドゲームは1試合も無かった。柵越えの本塁打も両翼90メートルと狭い江戸川区球場での1本のみに終わったのだ。
実際に戦った監督たちも異口同音に「飛びませんでした」と話したが、捉え方はそれぞれだ。前回大会優勝で、今大会では8強入りした取手リトルシニアの石崎学監督は「相手の打球でホッとした場面がありました。ホームランを『打たれた!』と思ったら。フェンスの5m手前……ということもありました」と振り返る。
「トップレベルの選手しかホームランを打てなくなる」?
今回はあくまでも試験導入のため、もしこのバットが本格的に導入されたら――という前提でさらに同監督に聞くと「各チームの中心打者では従来のバットとそこまで差はありませんが、ホームランは中学トップレベルの選手しか打てなくなるのではないでしょうか」と話す。
一方で「3、4年したら適応できるようになると思います。(低反発バットを使用しリトルシニア日本代表が出場する)全米選手権に今年、コーチとして行きましたが、最初は『このバット、飛ばないなあ』と思ったのですが、結果的には2本塁打出ましたからね」と中学生の適応能力の高さにも期待した。
今大会で4強入りし、普段は読売巨人軍で野球振興部長を務める高崎中央ボーイズの倉俣徹監督も「スイートスポット(※芯と言われる打球が飛びやすいバットの部分)が狭いので打撃の技術力が相当上がると思います」と中学生年代の選手たちの能力向上に期待する。
また、投手も「低めに投げ切ることが大事になっていきますが、低めを上手く掬って打つチームが出てくるかもしれない。そうしたら今度は打者の胸元に投げていこうなどと工夫するようになる。体力・技術力・観察力が再び重要になってくるでしょう」とし、「努力した者勝ちになりますよ」と展望した。
中学日本一を争い、多くの選手が強豪校へ進む能力の高い選手たちの中でも前述のような劇的な変化が起きた。