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高校野球「打高投低」は変わるのか?《来春から導入決定》“飛ばないバット”がもたらすもの…中学生の大会では「無得点チームが去年の倍に」
text by
高木遊Yu Takagi
photograph byYu Takagi
posted2023/12/19 06:05
今年8月のジャイアンツカップで優勝した世田谷西リトルシニアも強打のチームだが、大会で本塁打は出ず
金属バットの規格変更はこれまで何度もあり、その多くが今回のような「飛びすぎ」や受傷事故へのリスクを鑑みてのものが中心だったが、数年すれば選手たちは対応していくことが多い。2001年に「重さ900グラム以上でなくてはいけない」と規制され、より重いバットを振らなくてはいけなくなったが、各校はウェイトトレーニングに力を入れていき、結局は「打高投低」の図式に戻っていった。
今回の新基準のバットへの対応も技術力の向上に繋がり、高校卒業後の木製バットへの移行もスムーズになっていくことも期待されている。
「1本3万円」のバット、どう普及させる…?
一方で難しいのは普及の面だ。技術コストの増大によって値段は約2倍に上がり、相場は1本3万円ほどに(それでも予想されたよりも抑えられた方だというが)。また、「初心者やまだ野球が上手ではないレベルの高校生が、飛ばないバットで打撃をして楽しいのかという問題はあると思います」と川村氏が指摘するように、レベルの幅が大きい高校生年代ですべての加盟校に一律に規制することで、どのようなことが起こるのか。
実際に、ジャイアンツカップの主催者である読売新聞が大会前に中学硬式クラブチームに対して取ったアンケートでは、費用面の懸念に加え「もしこの試験的採用となったバットが新基準となると、中学1・2年生やまだ体の発達していない選手は野球を楽しめないのではないか」との指摘は複数あった。
中学硬式球界では現状「ジャイアンツカップでは継続して低反発バットを使用する予定」(大角氏)だというが、それは出場権を手にした32チームのみへの適用だ。一方で、高校は全国一律で来春の硬式野球の公式戦からすべて新基準のバットしか使用は認められなくなる。韓国では「高校野球が木製バットの使用になってからスラッガーが育たなくなった」とも言われる。
低反発バットの導入は、高校野球界のみならず日本の球界に大きな変革をもたらす可能性がある。技術、指導法・指導論、普及などが、どう変わっていくのか注視していきたい。